ノンテクニカルサマリー

住宅市場と住宅投資の動向

執筆者 宇南山 卓 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-」プロジェクト

日本の住宅投資は、1997年の消費税引き上げ直前をピークにほぼ一貫して減少してきた。本稿では、その住宅投資の低下の要因を明らかにした。住宅数で見れば、1996年の着工数が162万戸であるのに対し2013年が99万戸であり、説明されるべき住宅投資の落ち込みはおおむね63万戸である。

住宅投資(すなわち新たに建設される住宅数)は、概念的に、次のように分解することができる。

(住宅投資)=(既存住宅の更新数)+(住宅数の純増数)
      = 住宅総数×{(既存住宅の更新率)+(世帯数の変化率)+(空家率の変化率)}

既存の住宅のうち更新された住宅数は、1993年から1998年にかけての5年間で235万戸(年換算47万戸)であったが、2008年から2013年の5年間には139万戸(同28万戸)にまで低下していた。既存住宅のうち更新される住宅数については、住宅の耐用年数などが大きな制約要因となっており、住宅市場にとっておおむね外生的な動きをする。実際、建て方別・構造別に見ると、更新される住宅数の低下は更新率の低い共同住宅・非木造が増加したことが大きな理由である。

世帯数の変化率については、1995年以降に世帯数の増加は減速し、住宅投資を減少させている。核家族化や未婚化による単身世帯の増加によって、世帯規模は縮小して世帯数は増加していた。しかし、そのペースは低下傾向であり、世帯の増加ペースは1995年頃と2005年頃を比較すると年換算で約20万戸分低下している。

空家については、長期的に増加傾向にあるが、その推移は一定のペースではない。住宅・土地統計調査の期間でいえば1993年調査と1998年調査の間に急激に増加し、その後は増加ベースが低下している。特に「賃貸・売却用の空家」は、1993-1998年には年率に換算して18万戸を超えたペースで増加していたが、2008-2013年には2万戸程度にまで低下している。

この空家の増加のペースの低下は、バブル崩壊後の調整過程が終了したことによるものと考えられる。空家が1995年前後に大幅に増加したのはバブル崩壊後に住宅投資の「利回り」が上昇したためである。バブル経済後に、賃貸住宅の家賃水準はそれほど低下していないが、地価・金利は大幅に低下し、住宅投資の利回りが高まった。住宅産業は参入障壁が高くないため、住宅市場への参入が活発化したのである。しかし、2000年代に入り十分に住宅が供給されると、空家が増加し、稼働率を考慮した利回りは低下した。この利回りの低下が、住宅市場への参入を減らし、住宅投資の減少を招いたのである。

下の図は、総務省統計局の公表する「住宅・土地統計調査」を用いて、住宅投資の推移を要因分解したものであり、本稿の主要な結果である。住宅投資の落ち込みは、住宅の高寿命化による更新投資の減少、世帯数の増加ペースの減速、住宅資産の利回り上昇への調整がおわったこと、の3つの要素が住宅投資の低下の原因である。特に、住宅が高寿命化と少子高齢化という住宅市場にとって外生的な要因によって、説明すべき落ち込みの約3分の2に相当する年換算40万戸の住宅投資の落ち込みが説明できることは注目に値する。

この3要素で住宅投資の落ち込みが説明できるということは、1997年の消費税引き上げが住宅投資の落ち込みの主因であるという見方が誤りである可能性を示唆する。住宅投資の直近のピークが消費税引き上げ直前の1996年であったことから、2000年代初頭の落ち込みの原因を消費税引き上げとする見方があったが、より長期的な要因で説明されるべきであった。今後も消費税の引き上げが予定されており、住宅投資の落ち込み抑制が議論されると考えられるが、長期的な動向を考慮して適切に対応することが望まれる。

ここで指摘した3つの要因は、現状を前提とすれば、いずれも今後住宅投資を増やす方向に変化するとは考えられない。住宅の高機能化は現在も進展中であり、世帯数はもはや増加ペースの低下ではなく減少までが予想されている。さらに、地価が下げ止まり金利も最低水準となった現在では、住宅市場への新規参入が期待できる状態ではない。今後、住宅投資を高い水準に保つためには、社会的・経済的要因による住宅の更新を促進することが不可欠である。そのためには、1つには革新的な住宅の開発によって、住宅更新のインセンティブを高めることが選択肢となりうる。また、コンパクトシティ構想のように政策的に転居を選択するような都市計画を進めることも、住宅投資の新たな市場を生み出すイノベーションとなりうるだろう。

図:要因別の住宅投資の推移
図:要因別の住宅投資の推移