ノンテクニカルサマリー

高失業率に対する人口移動の反応:日本の市区町村データを用いた空間計量経済分析

執筆者 近藤 恵介 (研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

地域労働市場の異質性や相互関係の分析に学術的・政策的な観点から非常に大きな関心が集まっている。一国のマクロ経済分析とは異なり、国内の地域マクロ経済分析では新たに人口移動による地域間の調整メカニズムを考えることが必要になる。つまり、地域特異のショックが生じた場合に、域内で調整される効果とは別に、労働移動を通じて地域間でどのように調整されるのかが大きな焦点となっている。そこで、本研究では、失業率の地域間格差という視点から人口移動がどのように地域間調整として機能していたのかを分析している。

既存研究では、日本における失業率の地域間格差は縮小傾向にあることが指摘されている。図1は2005年から2010年までの間のデータを示している。図1(a)は2005年時点の市区町村別失業率を示しており、高失業率から低失業率の地域まで幅広く地理的に分布していることがわかる。図1(b)は、2005年時点の全国失業率を基準にした市区町村別の相対失業率と2005-2010年における相対失業率の変化率との関係を示している。相対失業率が約1より大きい場合には負の変化率を示し、相対失業率が約1より小さいと正の変化率を示すことから、全国平均への収束傾向が存在することがわかる。

図1:市区町村別失業率と失業率の地域間格差の縮小傾向
図1:市区町村別失業率と失業率の地域間格差の縮小傾向
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注)2005年、2010年の国勢調査より筆者作成。その他の図の詳細については論文の図1を参照

本稿では、失業率の地域間格差が縮小しているという背景を踏まえ、(1)失業率の高い地域から労働者が流出傾向にあったのか、(2)失業率の低い地域へ労働者が流入傾向にあったのか、(3)相対失業率の変化率と労働者の流出入率の間にはどのような関係があったのかという3点について、1980年から2010年の市区町村データを用いて人口移動の影響を検証している。本研究の特徴は、人口流出が進んでいる地域の周りでは同様に人口流出が進んでおり、人口流入が進んでいる地域の周りでは同様に人口流入が進んでいるという地域間の相互従属性(空間従属性)が失業率の地域間格差縮小にどのような影響を与えているのかを分析している点である。

分析の結果、図2が示すように、人口移動は近隣地域同士で相関が高いことから、失業率のプッシュ要因によって引き起こされる人口流出の影響は空間従属性を通じて地域広範に波及するということを示している。また、図3が示すように、自地域の人口流出率の上昇が自地域の相対失業率の変化率に負の効果を与えるだけでなく、近隣地域の人口流出率の上昇も、波及効果を通じて、同様の影響を与えることがわかっている。以上の結果を考慮すると、失業率の高さが地域一帯の人口流出を促し、そのような人口移動パターンが失業率の地域間格差縮小に寄与していたということが強く示唆される。

図2:人口流出率の地理分布と空間自己相関
図2:人口流出率の地理分布と空間自己相関
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注)2010年の国勢調査より筆者作成。その他の詳細については論文を参照
図3:失業率の地域間格差縮小と人口流出率の関係
図3:失業率の地域間格差縮小と人口流出率の関係
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注)2005年、2010年の国勢調査より筆者作成。その他の詳細は論文を参照

本研究の分析結果は重要な政策的含意を含むと考えられる。失業率の人口移動に対するプッシュ要因が長期的に機能していることを考えると、労働者の人口移動が少なからず地域労働市場間の不均衡の調整として機能していると思われる。したがって、域内外の求職情報が容易に入手できるようになるだけでも有効な手段となり、自発的な労働移動を通じて地域間のミスマッチ解消につながると考えられる。一方で、容易に地域間を移動できないような労働者も存在することに注意しなければならない。そのような労働者に対しては、域内労働市場の中で調整されるような政策が別途求められるだろう。