ノンテクニカルサマリー

少子高齢化社会に向けた移民と海外直接投資の関係について:国際的な生産要素移動と市場参入の観点から

執筆者 友原 章典 (リサーチアソシエイト)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

少子高齢化によって、国内の貯蓄や働く人(労働力人口)が減少し、日本経済に悪影響があるのではと懸念されています。こうした問題に対処するために、海外直接投資の流入を促進させたり、移民を受け入れたりしたらどうかなどと提案されています。そこで、ここでは、日本における海外直接投資流入の促進と移民の受け入れの間の相互作用について考えてみましょう。

図1

海外直接投資の流入を促進させたり、移民を受け入れたりすることは、国内で不足をしている資金と人を国外から調達していると考えることもできるのでよさそうにも思えますが、思った通りにうまくいくのでしょうか?

実は、今回の研究によると、移民の流入は海外直接投資の流入を阻害すること(トレードオフ効果)が示されています(注1)。生産活動には、資金か人かいずれか一方あれば十分であり、両方いっぺんに呼び込むのは難しいということです。こうした結果に、グローバル化を推進している政策担当者はがっかりなさるかもしれません。しかし、話はもう少し複雑です。業務の遂行に専門知識を必要とするような技能労働移民(会計士、エンジニア並びに弁護士など)とそれ以外の単純労働移民では結果が異なり、技能労働移民は、海外直接投資の流入を促進させる一方、単純労働移民は海外直接投資の流入を阻害することも示されました。こうした結果は、生産活動において、資金と技能労働者は補完しあうが、資金と単純労働者は代替するという議論とも一致しています(注2)。また、この結果は、短期的には、高度人材ポイント制度のように、技能労働移民の受け入れを積極化することは、海外直接投資流入の観点からも望ましいですが、それ以外の移民の受け入れは、海外直接投資流入の観点からは望ましくないことになります。

注意深い方は、なぜ'短期的'としているのかと思われたかもしれません。実は、長期的には、国内に存在する移民の数が多いほど、海外直接投資の流入を促進させる(民族のネットワーク効果)という別の効果もあったからです。さらに、長期的な民族のネットワーク効果は、短期的なトレードオフ効果を上回り、海外直接投資の流入促進と移民の受け入れ拡大の間には、相乗効果があることが示されています。また、長期的な民族のネットワーク効果は、国内にいる移民の大部分が非技能労働移民と区分されるにもかかわらず、成立しています。

図2

日本政府は長い間、海外直接投資流入の促進に努めてきました。ここで示された結論、海外直接投資流入の促進と移民の受け入れの間には相乗効果がある、つまり、長期的には移民が海外直接投資の流入を増やす可能性は、少子高齢化への対応とも併せて、今後の政策策定に有用な情報を提供すると思っています(注3)。

脚注
  • ^ ここでの移民は永住者だけではなく、長期滞在者(91日以上国内に滞在する外国人)と定義しています。
  • ^ たとえば、簡単な業務は将来コンピュータ(もしくは機械)に取って代わられてなくなるという議論や国内における所得格差は、技術革新によって技能労働者へ需要が増えた一方、単純労働者の需要を減らしたためという議論です。
  • ^ 移民の受け入れにはさまざまな側面があります。本稿は、海外直接投資と移民の関係に焦点を当てて分析したものであり、移民の受け入れを推奨するものではありません。また、当該分析での移民は長期滞在者と定義されており、日本に数年滞在して母国に帰国する外国人を多く含んでいます。従来の研究で考察されているような永住者の受け入れではなく、長期滞在者という形でも人的国際交流が進めば、海外直接投資の流入も増えると解釈されます。