ノンテクニカルサマリー

集積の要因とそれによる生産性上昇効果についての実証研究

執筆者 藤井 大輔 (研究員)/中島 賢太郎 (東北大学)/齊藤 有希子 (上席研究員)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

経済活動が特定地域に集積する強い傾向があることはよく知られている。また、集積地における企業、事業所の生産性が他に比して高いこともよく知られてきた。これらの知見は産業クラスター政策など、産業の集積によって生産性の向上やイノベーションを図る成長戦略の背景となってきた。

しかし、集積がいかにして生産性を上昇させるのかといった経路については未だ多くの知見があるわけではない。理論的には産業集積の要因としてはこれまで、知識のスピルオーバー、労働プーリング、取引関係といった要因が挙げられてきた。また、これらの要因が実際に産業の集積の規定要因として働いていることも実証的に示されてきた。しかしこれらの要因が実際に集積地における個別事業所の生産性上昇に寄与しているのか、つまり企業・事業所の近接立地がどのような経路で個別事業所の生産性に寄与するのかについての経路分析は、政策的観点からも極めて重要であるにもかかわらず未だ数少ない。

本稿ではこのような集積の生産性上昇効果について、その経路を特定することを目的としたものである。 特に本稿で注目したのは同一産業ではなく、産業ペアの近接立地、いわゆる共集積である。近年においては、単一の産業による産業集積地というものは著しく減少しており、都市のようにさまざまな産業を含んだ集積地が多数である。このもとでは、同一産業から受ける外部性のみならず、他産業から受ける外部効果が極めて重要であると考えられる。このような現実を背景に本稿ではこの共集積の生産性上昇経路について検証した。

本稿ではまず先に挙げた3つの産業集積要因が、実際に共集積の要因となっているかについて検証を行った。その結果、企業間取引関係が主要な役割を果たしており、その他の要因についてはそれほど強く共集積の要因として寄与していないことが示された。

続いて、これら集積の要因が個別企業の生産性に与える影響について分析した。その結果、集積の生産性上昇要因は産業ごとに大きく異なっており、産業ごとに集積の生産性上昇経路が異なる可能性が示された。その中でも特に企業間取引が多くの産業で生産性上昇に寄与していることが示された。しかし、その数は共集積要因として検出された産業よりも少なく、そのことは、必ずしも取引を求めて集積した産業の生産性はそれらとの近接によって生産性が向上していないことを示している。このような観点から結果をまとめたのが表1である。この表はそれぞれの集積要因について、それが共集積の要因として検出/非検出された産業数、および生産性上昇要因として検出/非検出された産業数についてのクロス表である。たとえば、知識波及については共集積の要因として検出された産業のうち、同時にそれが生産性上昇要因として検出された産業は1つも無い。共集積の要因として知識波及が重要でない産業において知識波及は生産性上昇要因として機能しているのである。つまり、生産性上昇に寄与する集積効果は必ずしも集積を促進していないのである。

本研究によって示された、集積の生産性上昇経路と、集積を促進する要因が異なるという結果は、自然発生的な集積では十分に集積の外部効果による生産性の上昇を見込むことができず、政府介入の余地があることを意味するといえよう。生産性向上に大きく寄与すると考えられる、知識波及を求めての集積は、自然発生的に生じづらく、イノベーション牽引型の経済成長において重要な役割を果たすと考えられる、知的クラスター形成のためには政策介入が重要である可能性があるといえるのである。

表1:それぞれの集積要因が共集積要因、および生産性上昇要因として検出された産業数
Panel (a) 取引関係 生産性
Yes No
共集積 Yes 25 89
No 14 22
Panel (b) 知識波及 生産性
Yes No
共集積 Yes 0 15
No 28 107
Panel (c) 労働近接性 生産性
Yes No
共集積 Yes 5 39
No 8 98