ノンテクニカルサマリー

リスク・テイキングと企業成長

執筆者 胥 鵬 (法政大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日米相対比価体系と国際競争力評価」プロジェクト

本論文の目的は、Jokn, et al (2008)の手法を応用して、非上場企業におけるリスクテイクおよびリスクテイクと企業成長との関連を解明することである。非上場企業、とりわけ、オーナー経営者企業はリスクテイクの主な担い手である。ここで、リスクテイクの尺度は産業調整済み減価償却前営業利益率の標準偏差である。この尺度はリスクテイキングや投資意思決定の迅速さなどの代理変数としてよく用いられる。経済産業省の企業活動基本調査票を用いて分析した結果、国内オーナー経営者企業は、国内子会社より過剰にリスク回避的であり、外資系企業は最も積極的にリスクテイクすることが明らかとなった。また、負債はリスクテイキングに対して有意な影響を及ぼさない。さらに、リスクテイキングは売上高成長率(表を参照)、総資産成長率と経営業績を有意に高めると、われわれの結果は示唆する。流動性の高い企業ほど売上高成長率と収益性は低下する。

アベノミクスで掲げられる持続的な経済成長を成し遂げるために、企業による適切かつ積極的なリスクテイキングは不可欠であると、われわれの分析結果は示唆する。シリコンバレーの成功は、まさにリスクテイクの賜物である。大胆なリスクテイキングが日本に広まれば、日本企業は収益性が改善し成長率が高まる。リスクテイキングを促すには、失敗からの再出発を保証することが重要である。起業とイノベーションを促進するために、EUでも米国の破産制度に倣って破産法の改正などが行われてきている。2002年に日本の破産法が改正されて差押免除の自由財産は大幅に拡大されたが、米国の破産法に設けられている家屋差押免除(homestead exemptions)は取り入れられていない。事業に失敗しても路頭に迷わないように、日本も家屋差押免除を設ければ、事業再挑戦と早期再生が促進される。ひいては、それが積極的なリスクテイキングにつながる。

また、企業価値を高めるリスキーな投資などの経営意思決定が行われる外資系企業の企業文化が国内企業の成長戦略の触媒になるという点から、対内直接投資を促進する政策が望ましい。海外の技術でなく、直接投資は異なる企業文化、リスクテイク戦略、業績連動報酬人事制度と経営ノウハウを日本にもたらす。こういった新しい経営が日本に広がれば、新しい成長の源泉になると期待される。また、経営陣を含め、異なる文化背景を有する人材を登用すると同時に社内や子会社への権限移譲などを通じて日本企業の多様化(diversity)を実現することも積極的なリスクテイキングにつながると期待される。

表:リスク・テイキングと企業成長
中小企業未上場大企業
(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)
リスク・テイキング5.837
(3.44)***
5.626
(3.33)***
5.656
(3.35)***
5.825
(3.60)***
12.19
(1.95)*
7.88
(1.76)*
7.99
(1.76)*
Log (企業年齢)-0.105
(3.28)***
-0.105
(3.31)***
-0.106
(3.34)***
-0.105
(3.28)***
-0.084
(1.53)
-0.106
(2.09)**
-0.106
(2.08)**
企業流動性-0.175
(2.66)***
-0.189
(3.08)***
-0.191
(3.15)***
-0.192
(3.17)***
-0.327
(1.58)
-0.349
(1.75)*
-0.362
(1.90)*
企業収益0.042
(0.20)
0.049
(0.23)
0.043
(0.21)
-0.569
(0.91)
短期負債比率-0.012
(0.23)
-0.321
(2.06)**
-0.249
(1.93)*
-0.258
(1.86)*
長期負債比率0.031
(0.60)
-0.018
(0.08)
0.043
(0.20)
負債比率0.008
(0.19)
企業数4,3834,3834,3834,383898898898
Chi2437.19431.75429.94429.061,101.541,198.971,182.22
Hansen J-test0.110.530.530.550.791.651.65
Hansen J-test p value0.9470.9120.9130.9690.3750.4370.647
企業売上高成長率とリスク・テイキングの操作変数法推定結果。リスク・テイキングは内生変数とし、それに対する操作変数は企業規模、親会社持株比率、外国人投資家持株比率と企業収益を用いる。売上高成長率は2003年-2012年の売上成長率、リスク・テイキングは2003年-2012年の減価償却前営業利益率の標準偏差。企業年齢、企業流動性、企業収益、短期負債比率、長期負債比率、企業負債比率は2002年時点の変数です。Chi2は常数項を除く説明変数のjoint significanceのWald検定統計量。()内はZ 統計量、 ***, **, *はそれぞれ1%、5%と10%レベルで有意を表す。Hansen J-testは過剰識別制約検定統計量、Hansen J-test p valueは過剰識別制約検定統計量に対応する確率。