ノンテクニカルサマリー

大災害が社会経済活動に及ぼす長期的影響の定量評価 : 阪神淡路大震災を事例として

執筆者 William DUPONT IV (Colby College)
Ilan NOY (Victoria University of Wellington)
奥山 陽子 (イェール大学)
澤田 康幸 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 大災害からの復興と保険メカニズム構築に関する実証研究―日本の震災とタイの洪水を事例として―
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「大災害からの復興と保険メカニズム構築に関する実証研究―日本の震災とタイの洪水を事例として―」プロジェクト

本稿は、1995年の阪神淡路大震災の社会経済的影響、とりわけ長期的な影響を定量化することを目指している。震災の影響は、震災後の被災地の社会経済状況と「仮に震災がなかった場合」の状況との乖離を定量的に評価することにより、より正確に行うことができるが、「仮に震災がなかった場合」の状況は観察され得ない反実仮想であり、それをいかに想定するかが定量評価の鍵を握る。本研究ではAbadie et al (2010)によるsynthetic control methodを用いることで、その困難に対処している。また、既存研究が都道府県レベルデータを用いていたのに対し、本研究では全国1719市区町村の約30年間にわたる大規模なパネルデータを用いたことも研究の特徴である。

分析の主な結果は次の3点に集約される;第1に神戸市の所得水準・人口規模は震災後15年が経過した時点でも、震災がなかった場合よりも有意に低くなっており、震災が持続的なマイナスの影響を持っていることがわかった(人口規模について示したのが、図1の左のパネル)。ただしたとえば人口規模について、神戸市内においてその影響は均一ではなく、震源地に近い神戸市中央区、兵庫区、長田区でマイナスの影響が顕著であるのに対し、より東側に位置する北区、灘区、東灘区では、震災後の時間の経過とともに影響がプラスに転じていることがわかった(図2)。第2に、西宮市などの周辺地域では、短期的にはマイナスの影響を経験したものの、長期的には逆にプラスの影響が生じていた(図1の右のパネル)。加えて第3に、神戸市北区、明石市、姫路市など震源から比較的離れた地域では、震災の直接的・間接的な影響があまりみられない、あるいはごく小さいレベルにとどまっていることがわかった。

これらの分析結果は、被災地としてひとくくりにされる地域の中でも、さまざまな市場・非市場メカニズムを通じて、震災の短期的および長期的影響には明瞭な違いがもたらされていることを示唆している。この明瞭な違いを生む要因を精査することが今後の課題であり、また震災後の復興のありようを理解する一助となると考えられる。

図1:神戸市(左)と西宮市(右)における、震災がなかった場合と実際との人口比較
図1:神戸市(左)と西宮市(右)における、震災がなかった場合と実際との人口比較
※黒線が実際の人口を、灰色線が震災がなかったと仮定して計算した場合の人口を示す。1995年調査時点での実際の人口を1として基準化している。なお人口データは、国勢調査に基づく。
図2:神戸市内各区人口に対する、震災の影響(1995年、2000年、2010年)
図2:神戸市内各区人口に対する、震災の影響(1995年、2000年、2010年)
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※地図上の数字は、実際の人口が、震災がなかったと仮定して計算された人口に対してどれたけ多いか(少ないか)を示している(%)。