ノンテクニカルサマリー

外資企業が産業生産性に与える効果:ベイジアンモデル平均化アプローチ

執筆者 田中 清泰 (ジェトロ・アジア経済研究所)
研究プロジェクト 日本企業の競争力:生産性変動の原因と影響
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本企業の競争力:生産性変動の原因と影響」プロジェクト

問題意識

人口減少により国内市場の成長が鈍化していくなか、対日直接投資は日本経済の成長を支える1つの柱として期待が高まっている。外国資本の企業が日本市場に進出することで、先端的な技術や経営ノウハウ、斬新なサービスなどイノベーションが日本にもたらされる可能性がある。また、外資企業の参入した産業において競争が促進されて、技術的な波及効果が生まれることで、日本企業の生産性向上も期待される。

こうした対日投資の経済効果を前提として、日本政府は2013年6月14日に閣議決定した日本再興戦略において、2020年における対内直接投資残高を35兆円に倍増(2012年末時点17.8兆円)する目標を掲げている。しかしながら、日本における外資企業の規模や影響に関する実証分析は十分に蓄積されていない。対日直接投資は日本経済の生産性にどの程度寄与してきたのか、という基本的な問題も十分に明らかになっていない(清田、2014)。

本稿の目的と特徴

本研究は、経済産業省「外資系企業動向調査」および東洋経済新報社「外資系企業総覧」の個票データを用いて、1995-2008年の期間で全産業、全都道府県における外資企業の全体像を把握している(注1)。この包括的なデータを活用して、外資企業の活動が地域別産業別の生産性に与える効果を検証している。仮説として第1に、生産性の高い外資企業が市場シェアを高めることで、外資が立地する同一地域・同一産業の生産性が改善する直接効果がある。第2に、外資企業から日本企業に対して競争効果や技術的波及効果が生まれれば、複雑な経路をたどり多様な地域・多様な産業の生産性が上昇する間接効果がある。

既存研究では、外資企業の間接効果は産業内や産業間、地域内や地域間で異なることが示されている。そこで本研究は外資企業の活動を図1のように区分して、地域・産業レベルの生産性と関連付けた。また、外資企業自体も外国投資家の母国籍(アジア、北米、ヨーロッパ)や、日本市場の進出形態(新規独立設立、新規共同設立、合併買収)で区別した。この場合、推定式で考慮する外資企業の変数が極端に多くなり、適切な推定モデルを選択することが難しくなる。そこで候補となるモデルをすべて推定して、各推定値の加重平均から相関関係を推定するBayesian Model Averagingの手法を活用したことが本稿の特徴である。

図1:外資企業が生産性に与える経路
図

結果の概要

地域・産業レベルの生産性は、同一産業や同一地域・川下産業における外資企業の雇用シェアと正の相関関係があることが分かった。つまり、外資企業の高い生産性による直接効果と、国内の川上産業に対する後方連関効果によって日本における地域別の産業生産性が改善する可能性がある。さらに、北米やヨーロッパの外国投資家が所有する外資企業や、新規共同出資や合併・買収で進出した外資企業が正の相関関係を生んでいる可能性がある。一方、他地域の川下産業や同一地域の川上産業における外資企業の雇用シェアとは負の相関関係が見られるように、外資企業の影響を正確に把握するためには多様な経路を考慮する必要性が明らかとなった。

インプリケーション

対日直接投資の効果は多様であるなか、本稿は外資企業の活動が産業生産性を改善する可能性を示している。高い技術やサービスを提供する外資企業や、日本企業と共同事業を行うような外資企業は特に生産性改善の効果が高いと考えられる。こうした日本の産業全体から見て好ましい外資企業に対しては、対日投資の誘致や促進を積極的に実施していくべきであろう。

一方、外資企業の参入によって日本企業の産業生産性が低下する可能性もある。たとえば、外資企業の相対的に高い賃金に誘引されて、日本企業から有能な人材が流出すれば競争力が損なわれるかもしれない。また、外資企業の参入によって生産性の低い日本企業が撤退した結果、外資企業の市場独占力が過度に高まる可能性がある。さらに、外資企業が日本企業の取引先に対してより高い価格でより低い品質のサービスや製品を提供するようになれば、産業生産性を低下させる可能性がある。外資企業が産業生産性に与える具体的な経路を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。

脚注
  • ^ 1995-2011年の期間における外資企業の動向や特徴は田中(2014)を参照してほしい。
文献