ノンテクニカルサマリー

中国の時系列供給使用表・投入産出表の推計

執筆者 伍 曉鷹 (一橋大学経済研究所)
伊藤 恵子 (専修大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

供給使用表と投入産出表は、国連で定められた国民経済計算体系の中でも特に、産業間の関係やその連関効果といった側面から一国経済全体のパフォーマンスを分析するために重要な統計である。我々は、これらの統計表について、長期間の年次データを推計し、経済成長と産業連関の変化との関係を検証する上で非常に有用な情報を作成した。

中国政府は、5年毎に詳細な投入産出表を公表しており、その間の年にも粗い産業分類ではあるが投入産出表を公表している。また、完全ではないものの供給使用表に近い統計表も公表している。しかし、産業分類が統一されておらず、また、投入産出表と供給使用表が公表されているのは2、3年に1度である。産業毎の生産額推移や産業連関の変化を時系列で分析するためには、時系列で比較可能な統計を構築する必要がある。そこで、我々は、これらの公式統計の産業分類を統一し、また、公式統計が存在しない年についてはデータを補完することにより、時系列で比較可能な各年の供給使用表と投入産出表を推計した。

本稿では、時系列供給使用表と投入産出表の推計における、主要なプロセスを説明している。具体的には、公式の国民経済計算統計における主要な問題点を修正する方法、産業別の生産者価格指数の再推計方法、旧ソ連型の物的生産体系(Material product system, MPS)に基づく1981年投入産出表を国民経済計算体系(SNA)に基づく投入産出表に変換する方法などを説明している。

図:中国の実質GDPの推移(1990 = 1)
図:中国の実質GDPの推移
注:Industry…鉱工業部門、Non-industry…非鉱工業部門、Alternative…本稿の推計結果、Official…公式統計

先行研究とは異なり、我々は、公式な国民経済計算統計と物価統計に基づいた推計を行っており、非公式な統計を利用した推計は行っていない。それにもかかわらず、我々の推計結果は、公式統計とは異なる経済成長率を示している。中国の経済成長に関しては、これまでさまざまな議論がなされてきたが、本稿の結果は新しい視点からこれまでの議論に再考を迫るものである。

本稿の主な結果は以下のとおりである。1981年から2010年の期間の年平均実質GDP成長率は、公式統計の10.2%に対し、我々の推計によると9.4%であった。2つの部門に大別すると、図にも示したとおり、鉱工業部門では公式統計の年率11.9%よりもかなり大きい、年率15.6%の成長率となった。一方、非鉱工業部門では、公式統計の年率8.9%よりも小さく、年率5.2%の成長率となった。我々は、産業別の産出と中間投入をそれぞれ実質化して実質付加価値を計算するというダブルデフレーションを採用していることが、公式統計との差異の主な理由である。生産から中間投入を引いたものと定義される付加価値は、直接的な価格指数を持たないため、ダブルデフレーションは理論的にも望ましく、かつ一般的に用いられる手法である。ダブルデフレーションを採用した我々の推計結果から、鉱工業部門においては、公式なGDPデフレータが示すよりも中間投入の価格が高かったこと、一方、非鉱工業部門においては、中間投入の価格が低かったことが示唆される。