ノンテクニカルサマリー

海外就業とマネジメント経験の蓄積による女性のキャリア開発の可能性

執筆者 牛尾 奈緒美 (明治大学)
志村 光太郎 (株式会社ヒューマネージ)
研究プロジェクト ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト

問題意識

女性のキャリア形成を促進するための重要な要素として、異動やジョブ・ローテーションによる長期にわたる能力開発や、幅広い経験・スキルの蓄積があげられる。

昨今、グローバル化が進む企業において、人材活用・育成の拠点を日本国内のみならず海外へと広げるケースが増えており、中には、積極的に女性社員を海外に赴任させ多様な職場経験を積ませることで長期的な内部人材育成につなげようと考える企業もでてきている。

本稿では、女性の活躍推進において企業のグローバル化と海外での就業体験がいかなる影響を及ぼしているかについて、企業および個人の事例研究を中心に、その実態の解明を試みている。

研究結果

グローバル人材、グローバル・リーダーの要件としては、一般業務スキル(主に、語学力、コミュニケーション力)、業務遂行能力(外国人とチームで働くこと)、マネジメント能力(外国人部下の管理・育成、海外拠点の管理・日本本社との連携)、ビジネス開発力(海外で現地拠点をゼロから立ち上げビジネスをスタート)があげられる。

ひと括りに女性の特徴を定義するのは、ステレオタイプに陥る危険性があり、また、ダイバーシティにも反するが、大まかな傾向として、女性はこれらのスキル・能力に長けているといえる。もちろん、女性自身、これらのスキル・能力を自ら開発する努力もしなければならない。

企業がなすべき取り組みとしては、その方向性において、(1)各スキル・能力を開発するための制度、施策を整える。また、(2)その制度、施策を運営するのに適した体制、風土を整える。そのうえで、具体的取り組みとして、(1)海外赴任によるキャリア発達の機会を女性にも応分に開放する。また、(2)仕事と育児の両立時期であっても、女性の海外赴任は可能であり、個人のニーズと照らし合わせながら企業として積極的に推し進める。

以上のグローバル人材、グローバル・リーダーの要件、および、それを開発するための、女性自身の取り組みと企業による取り組みの関係を示すと、図のようになる。

図:女性のグローバル人材化、グローバル・リーダー化を実現させるポイント
図:女性のグローバル人材化、グローバル・リーダー化を実現させるポイント

政策的インプリケーション

日本で両立を図るよりも、両立支援の文化とインフラがあり、女性が大いに活躍している国(地域)へ赴任させた方が、かえって女性の就業継続と能力発揮を促進できる場合がある。したがって、子育て期の若年女性に対しては、海外赴任の候補者から外すのではなく、そうした国(地域)への赴任の可能性を積極的に模索することが有効であるとの認識を持つべきである。もちろん、赴任先、時期、期間については、個々人の状況を踏まえ適用する必要がある。

若年女性のみならず、そうした国(地域)への赴任者は、異文化での就業体験の蓄積を通じて、グローバル人材として成長していく可能性が高い。また、日本に戻った際には、そこで身につけた新しい価値観、働き方を組織に注入し、ダイバーシティの推進にも寄与していくことが期待される。

したがって企業は、従来の常識にとらわれず、男女とも公平に海外赴任の機会を提供することで、人材育成とダイバーシティ推進のきっかけとするべきである。また、それを実現している企業は女性の活躍推進に積極的なグローバル企業であるとして、称賛される枠組みをつくるよう、政府に要望したい。