ノンテクニカルサマリー

国民経済の強靭性と産業、財政金融政策の関連性についての実証研究

執筆者 前岡 健一郎 (防衛省)
神田 佑亮 (京都大学)
中野 剛志 (コンサルティングフェロー)
久米 功一 (リクルートワークス研究所)
藤井 聡 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 強靱な経済(resilient economy)の構築のための基礎的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「強靱な経済(resilient economy)の構築のための基礎的研究」プロジェクト

現在、世界はサイバー攻撃、エネルギー危機、食糧危機、パンデミックや戦争など数多くのリスク(グローバル・リスク)に晒されている。世界経済フォーラムの報告書によると、中でも「システミックな金融危機」は世界に与える影響が最も大きいリスクとされており、発生確率も上昇傾向にある。

こうした経済ショックに対する対策の1つとして、公共投資が議論されることがしばしばである。たとえば、1929年の世界大恐慌時の米国のニューディール政策や、2008年のリーマンショック時のアメリカの巨額の財政政策などがその典型的な事例である。そして、こうした財政政策における公共投資を進める際に、その具体的内容を検討する際に、各種の公共計画が重大な役割を担うことと考えられる。つまり、経済ショックに対する対策方針が、必然的に公共計画の財政的枠組みを決定していく事を通して、公共計画の内実に甚大な影響を及ぼす可能性が考えられるわけである。

経済ショックに対する対策を考えることは、一般に「経済レジリエンス」(economic resilience)の問題としてさまざまな議論が展開されている。我が国においても、どのような危機に対しても、(1)致命傷を回避し、(2)可能な限り被害を最小化し、(3)被った被害からの可能な限りの早期回復をできるような、経済社会・産業構造・国土構造を構築して、将来に起こりうる危機への耐性、すなわちレジリエンスを高めておく必要がある。

そこで、本論文では、金融危機に端を発した百年に一度といわれるような世界的な不況であるリーマンショックをとりあげ、その回復過程に着目し、財政政策や金融政策などの対策としてどの様なものが効果的であったのか、そして、どの様な性質を持った国家がその経済ショックから迅速に回復できたのかを探索的に分析を行い、我が国の経済を外生的ショックに強い経済にするための知見を得ることを目的とした。

分析は、OECD加盟34カ国(2012年12月時点)について、GDPや失業率、産業別GDPや輸出・輸入、公共投資額、マネタリーベースなどのマクロ経済データを用いて行った。危機からの「回復」に焦点を当てて行った分析の結果(表の通り)、GDPのしなやかな回復に対して「公共投資の拡大」が有意に影響を与えていることが示された。一方で、失業率の回復に対しては、製造業の発展や公共投資の拡大が有効であることが示唆された。このことから、GDPや失業率のしなやかな回復を果たすためには、公共投資の拡大に基づく財政出動は有効なマクロ経済政策であると考えられる。

以上のことから、金融危機に対する国民経済の強靭性(ショック耐性、ショックからの迅速な回復)を高める上で、公共事業は重要な経済政策であることが示唆された。

表:ショックからの回復指標と説明因子の相関分析結果
表:ショックからの回復指標と説明因子の相関分析結果
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なお、本研究はリーマンショックという限定的なケースを対象に各国のマクロ経済指標を用いて分析したものである。今後、より一般的な知見を得るために、アジア通貨危機や石油危機といった他のケースを対象とした検証や、国内のマクロ経済指標を用いた地域経済の強靭性の分析など、経済の強靭性とその要因についてのさらなる研究の蓄積が重要であると考えられる。また、金融緩和を含めた各種施策の効果の現出には一定のタイムラグが存在することも考えられるため、そうした点も加味したより長期的な検証が今後必要であると考えられる。