ノンテクニカルサマリー

日本・中国・韓国企業におけるジェンダー・ダイバーシティ経営の実状と課題-男女の人材活用に関する企業調査(中国・韓国)605企業の結果-

執筆者 石塚 浩美 (産業能率大学)
研究プロジェクト ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト

問題意識

日本、中国、および韓国は、いずれも北東アジアに位置する隣国であり、男女別役割分業に深く関係するといわれる儒教的な考えを有し、職場などで男女間格差が認められる点で共通している[篠塚・永瀬(2008)]。2013年の「男女間格差指数」(GGGI:Global Gender Gap Index)は、136カ国(地域)中、日本は第105位、中国が第69位、韓国では第111位で、いずれも男女間格差が小さいとはいえない(図1)。また中国都市部では、男女間にワークライフバランス格差・昇進格差・賃金格差・職業格差・新技術対応格差が認められ[石塚(2010)]、先進国にみられる若年層の「専業主婦」が確認されている[石塚(2014)]。韓国においても、女性の年齢階級別労働力率が「M字型曲線」であり、専業主婦も多く、女性の就業中断傾向が認められる点など、日本と共通点がある。

本稿の目的は、日中韓3カ国の企業調査データを用いて「ジェンダー・ダイバーシティ経営」(Gender Diversity in Management)の実状を比較して、他から学ぶべき点は学ぶことにより、特に日本における女性人材の活用と、経済活性化に貢献することである。ここで「ジェンダー・ダイバーシティ経営」とは、職場において男女(ジェンダー)という多様性(ダイバーシティ)を取り込むことにより、成果につなげる経営、をいう。

図1:GGGI男女間格差指数(日本・中国全体・韓国・スウェーデン・アメリカ)
図1:GGGI男女間格差指数(日本・中国全体・韓国・スウェーデン・アメリカ)
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データ出所:The World Economic Forum(2013) "The Global Gender Gap Report 2013."
注1.図は各項目におけるスコアであり、女性割合を男性割合で除した数値である。男女が同じ割合であれば、"1"になる。各分野の小計となるスコアは、細目のスコアをウェイト付けして計算している。ウェイトの詳細は、The World Economic Forum(2013,Table 2)に詳しい。
注2.国名に付した順位は、GGGI(Global Gender Gap Index)の136カ国中の総合順位である。

5つの検証課題

図1はGGGIの4つの分野(1.経済、2.教育、3.保健、4.政治)別に、3カ国に加え、参考として第4位のスウェーデンと、第23位のアメリカのスコアも折れ線グラフで示したものである。日本がGGGIの順位を大きく下げている分野は、1.経済分野、および4.政治分野である。先進国(OECD加盟国)では、日本と韓国が最下位争いをしている。但し中国は、都市部と農村部を合わせた全体でみると第1次産業就業者が過半数に上るため、数値の読み方には注意を要する。本稿で注目する経済分野について日本と韓国を比較すると、日本のスコアのほうが韓国よりいくらか高い。但し、"管理的職業の男女比"のみは韓国のほうが高く、日本は低い。背景として2006年、韓国で「男女雇用平等法」の「積極的雇用改善措置」(AA制度)が施行されたことが考えられる。

したがって「ジェンダー・ダイバーシティ経営」に関する検証課題として、"(1)企業業績と女性就業者"、"(2)女性労働力(雇用の量)"、"(3)管理的職業の男女比(雇用の質)"、"(4)ワークライフバランスの実状と男女差"、および"(5)韓国のAA制度"を挙げる。

結果の概要

「男女の人材活用に関する企業調査(中国・韓国)」の実施対象である605企業の結果データのうち、主に集計値を用いて、これら5つの課題を検証した。但し、中国は「一人っ子政策」、男女別定年制、かつての計画経済による男女雇用平等政策の影響、職住接近など、独自の制度・慣行がある点に留意されたい。

"(1)企業業績と女性就業者"では、3カ国とも収益性と、経営層・管理職・従業員の各女性比率は、一部で正の相関が認められた。"(2)女性労働力(雇用の量)"は、日本は韓国よりは高い。日本の女性労働力率の「M字型曲線」の左右の待遇格差が問題といえる。中国都市部は、労働市場における女性比率が3カ国で最も高い。女性保護的な制度は殆ど無いが、就業時間は長すぎない。女性雇用拡大の施策として、中国では経営層のコミットメントという回答が2割強ある。また、各企業の戦略的課題のうち「女性活用推進」を10位以内に据えていると回答した企業割合は中国で80%足らず、韓国は40%弱であり、日本のみデータが異なるので一概に比較できないが25%と低い[McKinsey & Company(2012)]。"(3)管理的職業の男女比(雇用の質)"について、図2で各職位の女性比率をみると、上位の管理職では同比率が低くなることは3カ国で共通しているが、女性管理職比率が最も高いのは中国都市部である。課長への昇進年齢は、中国都市部が20歳代、韓国が30歳代であるのに比べ、日本は30歳代後半の「遅い昇進」といえるが女性はそれ以前に辞職するケースが多い。"(4)ワークライフバランス"については、図2で正社員に限定した女性比率を比べると、4年制大学以上卒業・有配偶・子どもありは、いずれも中国が高いが、次いで日本、そして韓国の順である。また女性は出産・育児などにより辞職することが、程度の差こそあれ3か国で共通していることが分かった。"(5)韓国のAA制度"は、日本の「次世代育成支援対策推進法」に類似しており、「行動計画書」を提出して実施するというものである。異なるのは、同じ企業規模と業種の、雇用労働者と管理職の女性比率の各60%が達成目標であり、すなわち高すぎない具体的数値が目標ということである。実際に、経営層・管理職・従業員の女性比率は、いずれも毎年逓増している。

政策的インプリケーション

日本において、職場の女性活用を進めるために、中韓の調査結果から学べそうなことをまとめる。中国からは、一般に長時間就業ではないという前提があるうえで、女性就業者保護制度は殆ど無いため、「人財」育成を通じて責任があり挑戦し甲斐のある「おもしろい仕事」を女性に任せることを学べそうである。韓国からは、AA制度のような政府主導で企業負担が重すぎない実効的な政策導入のヒントを学ぶことができるのではないだろうか。日本政府は職場における女性活用のロードマップとして「202030」(社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する、とした政策目標)を掲げている。

図2:ワーク(職場)の職位や、ライフ(家庭)における女性比率(正規従業員、%、中国・韓国・日本)
図2:ワーク(職場)の職位や、ライフ(家庭)における女性比率(正規従業員、%、中国・韓国・日本)
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データ出所:RIETI「平成25年度 男女の人材活用に関する企業調査(中国・韓国)」、RIETI「平成21年度 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する国際比較調査」の日本データ.
注1.各数値は、男女計のうちの女性比率である。DP本文の表3-2-1、表3-2-2、および表3-4-1の数値を図示した。
注2.中国・韓国データと、日本データは調査方法や調査項目が同一ではない。特に中国・韓国企業データは母集団へのソフト・クオータにより調査をおこなっているが、日本企業データにはこの制約はない。また経営層・社外取締役・係長・未就学児あり・小中高校の子どもありの調査項目は、日本データには無い。なお「小・中・高校の子どもあり」の日本の数値は、「(年齢に関わらず)子どもあり」を表す。