ノンテクニカルサマリー

国際投資協定における「一般的例外規定」について

執筆者 森 肇志 (東京大学)
小寺 彰 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「国際投資法の現代的課題」プロジェクト

日本が締結してきた国際投資協定にはしばしば「一般的例外規定」と呼ばれるものが含まれている。それらは、GATT(関税と貿易に関する一般協定)およびGATS(サービス貿易一般協定)の一般的例外規定をモデルとしている(GATT/GATS型一般的例外規定)。これに対して諸外国では、「一般的例外規定」という語は、国際投資協定上の義務全体に係る例外という意味で用いられることが多い(通常の意味の一般的例外規定)。GATT/GATS型一般的例外規定は、その例外事由の範囲についても、それが実際に援用される条件についても、通常の意味のそれより限定されており、その結果投資協定上の義務違反がGATT/GATS型一般的例外規定によって正当化される場合も限られる。

したがって、日本政府としては、まず、「一般的例外規定」を、GATT/GATS型一般的例外規定を意味するものとして用い続けるか否かを再検討する必要がある。カナダのように一般的例外規定という語を通常の意味で用いつつ、その中にGATT/GATS型一般的例外規定を組み込むことも可能であろうし、そもそもGATT/GATS型一般的例外規定が必要か否か、必要だとして、そこに列挙される例外事由の範囲は適切か、柱書と言われる条件は適切か、といった点についても、あらためて検討すべきである。

さらに、GATT/GATS型一般的例外規定を残す場合、それによって違反を正当化しようとする投資協定上の義務の規定内容について、精査することが必要である。たとえば公正衡平待遇義務のように、その内容の理解の仕方によっては、その違反がGATT/GATS型一般的例外規定によって正当化されえない場合もありえ、その場合には同義務との関係では一般的例外を規定する意味がないことになってしまう。したがって、公正衡平待遇義務以外の義務についても、どのような場合にGATT/GATS型一般的例外規定によって正当化されるかを整理した上で、投資協定を締結する際に、日本政府が意図する義務と例外のバランスを図る必要がある。