ノンテクニカルサマリー

東日本大震災における復興投資の地域間再分配効果の計測

執筆者 林山 泰久 (東北大学)
中嶌 一憲 (兵庫県立大学)
坂本 直樹 (東北文化学園大学)
阿部 雅浩 (東北大学)
研究プロジェクト 東日本大震災に学ぶ頑健な地域経済の構築に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東日本大震災に学ぶ頑健な地域経済の構築に関する研究」プロジェクト

政府による復興投資は、東日本大震災によって毀損した資本ストックを復旧させるものであり、その長期的な効果を明らかにするためには動学的な分析が必要である。一方で、いわゆる「復興需要」の効果が注目されているように、復興投資は被災地における総需要の増加を意味し、毀損したままの資本ストックの量を所与としたとしても、被災地の総所得や総生産を増加させ、それが被災地以外の経済へ波及することも考えられる。

そこで、本研究は被災地への局所的な需要創出である復興投資が需要サイドに与える効果に着目し、復興投資が静学的に被災地に及ぼす経済的影響およびその地域間波及効果を計測する。

本研究において、以下の2つのシナリオを想定する。

1) 民間企業設備の毀損による供給制約
被災地における資本ストックの毀損による経済的被害を計測するために、資本ストックの毀損率を算出し、この値を用いて民間企業設備の毀損による供給制約を想定する。本研究における東日本大震災の被災地は岩手県、宮城県、福島県および茨城県の太平洋岸4県とし、当該地域の直接的被害の影響が47都道府県および20産業部門に波及するものとする。

2) 復興投資による地域間再分配
復興投資による影響を計測するために、復興財源を被災地にのみ均等配分する復興投資と復興財源を全国一律に配分する復興投資の2つを想定する。また、復興投資の財源としては、復興債が復興特別税(復興特別所得税および復興特別法人税)からの税収によって償還されることを鑑み、税収を想定し、各都道府県の税収の1%を復興財源とする。

本研究において得られた知見は以下のとおりである。

(1)東日本大震災による民間企業設備の毀損がもたらした実質GDPの変化額は、全国計で-1.24兆円/年、被災地合計で-1.20兆円/年と推計された。また、このときの厚生の変化は全国計で-1.09兆円/年、被災地合計で-0.86兆円/年であり、1人あたりの厚生変化は宮城県が-145.5千円/人年、岩手県が-152.0千円/人年と大きな減少が示された。さらに、都道府県別の生産額の変化は全国計で-2.13兆円/年(-0.23%)、被災地合計で-2.04兆円/年(-3.24%)であり、産業部門別では商業、その他サービス、建築・土木での生産額の大きな減少が示された。

(2)復興財源を被災地へ均等配分する復興投資がもたらした実質GDPの震災後の状態(民間企業設備の毀損)からの変化は、全国計で160億円/年の改善、被災地合計では5670億円/年の改善であり、また厚生の変化も全国計で3.60兆円/年の改善、被災地合計で1.21兆円/年の改善が示された。さらに、都道府県別の生産額の変化は全国計で730億円/年(0.01%)の改善、被災地合計で1770億円/年(0.28%)の改善であり、また産業部門別では建築・土木および電子機器の生産が改善されるのに対して、その他サービスおよび医療・保険・社会保障の生産が悪化していることが示された。復興財源を被災地へ均等配分する復興投資によって、被災地における実質GDP、厚生、および生産額は震災後の状態から改善されることから、復興投資が被災地の経済改善に大きく寄与していることが示された。

(3)ベンチマークとして計算した全国一律配分の復興投資は、全国計で3.57兆円/年の厚生を改善するのに対して、被災地均等配分の復興投資による厚生の変化は、全国計で3.60兆円/年の改善であることから、経済厚生上、被災地均等配分の復興投資は全国一律配分の復興投資と少なくとも同等のプロジェクトであることが示された。

(4)被災地以外の地域における厚生の変化を見ると、被災地均等配分の復興投資が2.39兆円/年の厚生改善であるのに対して、全国一律配分の復興投資は2.01兆円/年の改善であることから、被災地のみに復興投資を行うことは、全国一律の復興投資を行うことよりも、被災地以外の地域において厚生改善をもたらすということが示された。

政策的含意

被災4県(岩手県・宮城県・福島県・茨城県)への均等配分の復興投資が被災地以外の他地域に対して、より高い厚生改善をもたらすことは、この復興投資によって創出される需要増加が、少なからず他地域へ向けられているためと考えられる。

図:被災地均等と全国一律の復興投資による厚生変化の比較 (10億円/年)
図:被災地均等と全国一律の復興投資による厚生変化の比較 (10億円/年)
(注)正値は復興投資による震災後の状態からの厚生改善、負値は震災後からの厚生悪化を示す