ノンテクニカルサマリー

日本の財政再建

執筆者 深尾 光洋 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済成長を損なわない財政再建策の検討」プロジェクト

日本のインフレ率をGDPデフレータでみると、1990年代初めの3%から1994年にはゼロ近傍に低下し、その後もマイナス1-3%のデフレが継続してきた。これに対して、日銀は短期市場金利を90年代初めの8%から引き下げることで景気回復を図ってきたが、1995年には0.5%にまで低下し、事実上金利の引き下げ余地はほとんどなくなった。図表は横軸にデフレータインフレ率、縦軸に短期市場金利を取って推移を示しているが、インフレ率がマイナス1%になるまでは金利がゼロまで引き下げられてきたが、デフレがさらに悪化するなかで、日銀はゼロ金利の制約に直面して金利が下げられなくなっていたことが分かる。

図:Inflation Rate and Short-term Money Market Rate (1991 Q1-2004 Q1)
図:Inflation Rate and Short-term Money Market Rate (1991 Q1-2004 Q1)
Note: The red regression line is estimated using data prior to 1999 Q1 when the BOJ faced a zero-lower bound.

政府は財政政策による景気対策を行ったが、1997-2002年にかけての金融危機などの影響もあって十分な景気刺激効果が得られず、政府債務は膨張を続けた。こうした中で、日銀は2001年から量的緩和を開始したが、デフレを払拭するには不十分であった。

2013年春に安倍晋三政権によって黒田東彦日新総裁が任命され、日銀は従来の量的緩和を遥に超える規模の国債買いオペ拡大による量的緩和を実施した。この新政策は相当の円安と株高を発生させ、景気回復を実現した。量的緩和によりデフレータの下落はほぼ止められたものの、なお上昇するには至っておらず、市場の予測では2%のインフレ目標の達成は困難である。また野田政権の下で決定された消費税の2段階5%までの引き上げにより財政赤字の削減を図っている。しかし本稿におけるシミュレーションによれば、財政赤字の削減は不十分であり、相当大規模な増税と歳出削減の追加が無ければ、政府債務は今後急激に増加することが予想されている。

景気回復と財政再建を両立させるためには、財政の引き締めと成長の持続が不可欠であり、そのためには大胆に新たなマクロ政策、構造政策を行っていく必要がある。本稿では、政府が元利払いを保障している全ての金融資産に対して事前にアナウンスして1-2%程度の率で残高に課税することでマイナス金利を実現することを提案している。具体的には、円預金、国債、地方債に対して課税を行うことでマイナス金利を実現し、消費・投資を刺激することを提案している。預金に課税する場合、現金への資金逃避が予想されるので、現金に対しても新紙幣の発行と旧紙幣との交換手数料の賦課による課税や、全面的にパスモやスイカのような電子マネー化することで課税することを提案している。これは、かつてシルビオ・ゲゼルが提案したゲゼル税(現金に対する印紙税)を現代に適用できるように修正した課税による景気刺激政策である。また成長力については、移民政策を見直し日本語能力の高いバイリンガルの外国人に対して年間数万人規模の就労ビザを発行することで人口減少を抑制する政策を提案している。