ノンテクニカルサマリー

欧州中央銀行の非伝統的な金融政策:銀行と政府の市場借入コストは低下したのか?

執筆者 SZCZERBOWICZ, Urszula (ヴィジティングスカラー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

2007年~2012年の間、ユーロ圏の金融市場は世界金融危機と圏内の政府債務危機による深刻な影響を受けた。ユーロ圏の銀行の健全性や一部債務国の支払能力に対する懸念がリスクプレミアムを押し上げ、圏内の銀行や政府の資金繰りが困難になった。従来型の金融政策手段である金利調節は、金融市場の緊張緩和には効果をもたないことが露呈した。貸し渋りを回避するため、欧州中央銀行 (ECB) は異例の流動性供給と資産買い入れという非伝統的な金融政策を実施した。

本稿では、ECBの非伝統的な金融政策がユーロ圏の銀行や政府の借入コストの削減に有効であったのか、その効果を測定する。このため、金融政策発表について、波及チャネル別に分類したデータベースを構築した。さらにイベントスタディを通じて、金融政策発表がユーロ圏諸国の短期金利スプレッド、カバードボンドのスプレッド、およびソブリン債のスプレッドに与える影響を検証した。短期金融市場およびカバードボンド市場は、それぞれ銀行による短期および長期の資金調達に係る代表的市場であり、また、ソブリン債のスプレッドは、政府による借入コストを概ね表している。

分析の結果、ECBによる3年物資金供給オペ(LTRO)ならびに中銀預金金利のゼロ化といった流動性供給政策が、ユーロ圏金融市場の根強い緊張を大幅に緩和させてきたことが確認された。さらに、中央銀行によるソブリン市場への介入は、ソブリンリスクの高い時ほど効果的であることがわかった。興味深いことに、ソブリンリスクと銀行リスク間の相互依存関係は、ECBによる資産買い入れ効果の波及において重大な役割を果たす。すなわち、銀行資産に裏付けられたカバードボンドの買い入れはソブリン債のスプレッドを縮小させる一方、ソブリン債の買い入れはカバードボンドのスプレッドを縮小させる。

図1:STT導入が株式市場の取引高とボラティリティに及ぼす影響
図1:STT導入が株式市場の取引高とボラティリティに及ぼす影響