ノンテクニカルサマリー

技術ライフサイクルとサイエンスベースドイノベーションに関する実証分析:太陽電池セルに関するケーススタディ

執筆者 元橋 一之 (ファカルティフェロー)
友澤 孝規 (経済産業省)
研究プロジェクト 日本型オープンイノベーションに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本型オープンイノベーションに関する実証研究」プロジェクト

本論文は、イノベーションにおける大学などの公的研究機関の研究成果の役割が、技術ライフサイクルの違いによってどのように異なるか、太陽電池セルを事例として特許データを用いて計量分析を行ったものである。まず、特許情報によって太陽電池セルの技術内容を、(1)シリコン型、(2)化合物型、(3)有機型、および(4)色素増感型の4つに分類した。図は、それぞれの分類ごとの特許出願数の推移を見たものである。技術ライフサイクルは、(1)萌芽期(プロダクトイノベーション中心)、(2)成長期(プロダクト+プロセスイノベーション)および(3)成熟期(プロセスイノベーション中心)に分類することができるが、ここでは、萌芽期にある色素増感型と成長期にあるシリコン型の産学連携特許の特徴を比較することで、企業のイノベーションに対して、大学などの公的研究機関の研究がどのような影響を与えるか分析を行った。

技術ライフサイクルの初期段階(萌芽期・色素増感型)において、公的研究機関における研究は、技術市場において新たな技術を提供し、技術の幅を広げる役割をもつ。従って、企業においては、共同研究などの産学連携活動を通じて、自社のイノベーション能力の幅を広げることが可能となることが分かった。その一方で、技術ライフサイクルの中期段階(成長期・シリコン型)に進むと、公的研究機関における研究のイノベーション活動における役割が低下し、その一方で企業の貢献が大きくなる。その段階では、企業において産学連携の直接的な効果は見られなくなる。しかし、企業内で産学連携を行ったことのある研究者は、より技術的価値が高い発明を行っていることが観測された。つまり、この発明者は、以前行った産学連携活動によって、科学的な知見を企業内のイノベーションに取り込む能力を身につけることができ、それが企業内のイノベーション能力の向上につながっていると解釈できる。

大学などの公的研究機関に対しては多額の公的な研究資金が投じられており、その経済的な効果が十分に得られているのかについて疑問視する声がある。産学連携のアウトプット指標として、特許数や技術ライセンス額などが使われることがあるが、これらの直接的な指標には、効果の一部しか反映されていない。特に、技術ライフサイクルが中期以降にある技術分野については、産学連携によって、公的研究機関の技術が企業内研究者に体化され、それが企業のイノベーション能力向上につながることが確認された。産学連携の経済的効果について評価を行う際には、このようは間接的な効果についても検討を行うことが必要である。

図:太陽電池セルの技術分野別特許数
図:太陽電池セルの技術分野別特許数