ノンテクニカルサマリー

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う観光関連産業の「風評被害」に関する定量的判定・評価について

執筆者 戒能 一成 (研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故により、放射能汚染の懸念から福島県および近隣県においては観光客数が大幅に減少し、観光関連産業の売上高が減少するという経済被害が発生している。事故後2年以上が経過した現在、多くの地域で入込観光客数は回復傾向にあるが、なお一部の地域では事故前と比較した入込観光客数の減少が続き「風評被害」が継続している状況にある。

東京電力においては原子力損害賠償審査会指針などに基づき当該観光関連産業の「風評被害」に対し損害賠償を実施しているが、「風評被害」の継続・収束などの動向についての情報を十分には把握できておらず、「迅速かつ平易な賠償」の実施は重要であるものの制度が目的外に利用される危険が残る状況にある。

本稿においては、措置効果に関する統計的手法を応用し、「風評被害」の継続・収束について定量的に推計する手法を開発し、各都道府県における県内地域別・市町村別入込観光客数の実績値推移を用いて、福島・茨城・栃木・群馬および宮城県の合計28地域について当該推計手法を適用した結果を総合的に評価した。

その結果、2012年第4四半期時点でなお被害が継続していると推定されるのは福島県東部・中部(浜通り・中通り)地域、会津中央・南会津地域、茨城県北部・栃木県日光地域などに限定され、群馬県全域および茨城県・栃木県の大部分の地域、福島県会津西北・磐梯猪苗代地域などでは「概ね収束」と判定された。

当該地域別の挙動差の原因は、福島第一原子力発電所や立入禁止区域などとの近接性に加え、会津・日光地域での「文化歴史」「温泉健康」などを目的とする観光客の減少、汚染水問題の影響による海水浴・海釣目的観光客の減少などが影響していると推定される。

従って、「風評被害」に対する損害賠償のあり方として、福島県を中心とする上記地域については従来の外形標準など何らかの「迅速かつ平易な賠償」を継続する必要があるが、他の地域については個別案件毎の事情を聴取・考慮し判断する方式へと方法論を変更していくことが必要であると判断される。