ノンテクニカルサマリー

投資仲裁判断の執行に関する問題

執筆者 水島 朋則 (名古屋大学)
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「国際投資法の現代的課題」プロジェクト

投資家が外国(投資受入国)との間で生じた紛争を仲裁に付託する事例が、1990年代末から飛躍的に増えている。たとえば投資家への損害賠償の支払いを命ずる仲裁判断を、これまで投資受入国はほとんどすべて履行しているといわれるが、他方で、近年のアルゼンチンのように、投資仲裁判断を履行しないケースもあり、そのような場合に、どのようにして投資仲裁判断を執行するか(履行させるか)という問題が、国際投資法の現代的課題の1つとして生じている。

投資仲裁判断の執行のための法的な枠組みとしては、投資受入国以外の国に仲裁判断の執行を義務づける国際条約があり(ICSID条約・ニューヨーク条約)、それぞれ約150カ国が締約国となっていることから、投資仲裁判断の執行のための十分な制度が整っているようにも見える。しかしながら、実際には、外国の財産(の一部)を執行措置から免除する別の国際法規則(執行免除)のため、投資仲裁判断が第三国で執行されるケースはほとんどない。しかも、近年、執行免除の対象となる外国の財産を広く解釈したり、外国による執行免除の放棄を狭く解釈することによって、執行免除の範囲を広げる実行が見られる。したがって、投資受入国が自発的に履行しない場合の投資仲裁判断の実効的な執行は、制度的には担保されていないと評価するほかない。

そのような現状を前提として、投資仲裁の実効性を少しでも高めるためには、間接的ではあるが、仲裁判断の内容面での質を高めることによって自発的な履行をできるだけ確保することが求められる。投資仲裁判断の増加に伴い、相互に矛盾する仲裁判断も見られるようになっており、投資仲裁判断の一貫性を確保するために、投資紛争解決システムの中に上訴機関を設けることは、十分に検討に値する。そのような望ましいシステムの構築に向けた政策を、積極的に推し進めるべきである。

また、外国の財産の執行免除については、日本では、国連主権免除条約に基づいた「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」(2009年公布、2010年施行)に定められているが、日本の裁判所は、執行免除の対象となる外国の財産の拡張解釈や免除放棄の限定解釈によって執行免除の範囲を広げる実行に追従するべきではない。外国(投資受入国)の利益を過度に考慮した、私人(投資家)の期待に反するような解釈が、延いては、投資保護に対して実は日本は消極的であるという評価につながりかねないからである。