ノンテクニカルサマリー

JSTARを使った抑うつ度と他の指標との関係の検証

執筆者 関沢 洋一 (上席研究員)
吉武 尚美 (お茶の水女子大学)
後藤 康雄 (上席研究員)
研究プロジェクト 人的資本という観点から見たメンタルヘルスについての研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「人的資本という観点から見たメンタルヘルスについての研究」プロジェクト

本研究では、RIETI、一橋大学および東京大学の各研究成果である「くらしと健康の調査(JSTAR)」のデータを使って、50代から70代の中高齢者について、基本属性や経済的社会的地位や身体的健康の状態が、抑うつ度(うつっぽさ)とどのように関係しているかを検証した。抑うつ度の得点は、CES-D (The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を使った。

先行研究と特に異なるユニークな結果となった点として、世帯収入・預金額と抑うつ度の関係がある。世帯収入と預金額の大小に応じて4つの層に分けて抑うつ度との関係を検証したところ、他の変数を制御しない場合には、男女ともに、世帯収入が最も少ない層(214万円以下)、預金額が最も少ない層(100万円以下)に比べて、それ以上の層は抑うつ度が低い傾向があった(図1、図2)。

ところが、重回帰分析によって、年齢・学歴・就労状況などの諸変量を制御すると、男女間で異なる結果となった。世帯収入については、男性では、世帯収入が最も低い層(214万円以下)に比べて、それ以上の層は抑うつ度が低い傾向があるのに対して、女性の場合、男性ほど明瞭ではない。これに対して、預金額については、世帯収入とは反対に、男性については抑うつ度と有意な関係が存在しないのに対して、女性では、預金額が最も少ない層(預金額100万円以下)に比べて、預金額が100万円~400万円以下の層では有意な抑うつ度の差はないが、それ以上の層になると、抑うつ度が有意に低下している。

図1:世帯収入と抑うつ度
図1:世帯収入と抑うつ度
(注)抑うつ度はCES-Dを使用した。得点が高いほど抑うつ度が高い。
図2:預金額と抑うつ度
図2:預金額と抑うつ度
(注)抑うつ度はCES-Dを使用した。得点が高いほど抑うつ度が高い。

このことは何を意味するのだろうか? 1つの解釈として、男性は、収入の大小によって自分の価値を判断し、収入が下がると自分の価値が下がったように感じられて抑うつ度が上がる(うつっぽくなる)ということなのかもしれない。逆に、女性は、(多くの場合には主たる働き手は夫であることもあって)一時的な所得の変動には影響を受けにくい一方で、預金額の大小は将来不安に影響を及ぼして、不安と密接な関係を有する抑うつ度にも変化が起きるということかもしれない。

この研究の政策的インプリケーションとして、中高齢の女性については、所得移転によって抑うつ度の高まりを防ぐためには、巨額の移転が必要になると思われることがある。世帯収入と預金額が最も低い層(それぞれ214万円以下、100万円以下)と比べて、抑うつ度が有意に低くなるのは、世帯収入では554万円超に限られ、預金については400万円超に限られている。仮に、世帯収入や預金額から抑うつ度への因果関係が存在しているとしても(本研究からは因果関係は明確でない)、うつを防ぐための300万円の所得移転は現実的ではないように思われる。

中高齢の男性については、世帯収入と抑うつ度の関係が明瞭に存在するが、自分で稼いだお金の大小によって抑うつ度が影響される(自分で稼いだお金が多い人は自分に価値があると考える)と解釈する方が自然かもしれず、そうだとすれば、年金や生活保護の充実などでは抑うつ度の低下には寄与しないかもしれない。この点については更に精査する必要がある。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「人的資本という観点から見たメンタルヘルスについての研究」プロジェクト

本研究では、RIETI、一橋大学および東京大学の各研究成果である「くらしと健康の調査(JSTAR)」のデータを使って、50代から70代の中高齢者について、基本属性や経済的社会的地位や身体的健康の状態が、抑うつ度(うつっぽさ)とどのように関係しているかを検証した。抑うつ度の得点は、CES-D (The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を使った。

先行研究と特に異なるユニークな結果となった点として、世帯収入・預金額と抑うつ度の関係がある。世帯収入と預金額の大小に応じて4つの層に分けて抑うつ度との関係を検証したところ、他の変数を制御しない場合には、男女ともに、世帯収入が最も少ない層(214万円以下)、預金額が最も少ない層(100万円以下)に比べて、それ以上の層は抑うつ度が低い傾向があった(図1、図2)。

ところが、重回帰分析によって、年齢・学歴・就労状況などの諸変量を制御すると、男女間で異なる結果となった。世帯収入については、男性では、世帯収入が最も低い層(214万円以下)に比べて、それ以上の層は抑うつ度が低い傾向があるのに対して、女性の場合、男性ほど明瞭ではない。これに対して、預金額については、世帯収入とは反対に、男性については抑うつ度と有意な関係が存在しないのに対して、女性では、預金額が最も少ない層(預金額100万円以下)に比べて、預金額が100万円~400万円以下の層では有意な抑うつ度の差はないが、それ以上の層になると、抑うつ度が有意に低下している。

図1:世帯収入と抑うつ度
図1:世帯収入と抑うつ度
(注)抑うつ度はCES-Dを使用した。得点が高いほど抑うつ度が高い。
図2:預金額と抑うつ度
図2:預金額と抑うつ度
(注)抑うつ度はCES-Dを使用した。得点が高いほど抑うつ度が高い。

このことは何を意味するのだろうか? 1つの解釈として、男性は、収入の大小によって自分の価値を判断し、収入が下がると自分の価値が下がったように感じられて抑うつ度が上がる(うつっぽくなる)ということなのかもしれない。逆に、女性は、(多くの場合には主たる働き手は夫であることもあって)一時的な所得の変動には影響を受けにくい一方で、預金額の大小は将来不安に影響を及ぼして、不安と密接な関係を有する抑うつ度にも変化が起きるということかもしれない。

この研究の政策的インプリケーションとして、中高齢の女性については、所得移転によって抑うつ度の高まりを防ぐためには、巨額の移転が必要になると思われることがある。世帯収入と預金額が最も低い層(それぞれ214万円以下、100万円以下)と比べて、抑うつ度が有意に低くなるのは、世帯収入では554万円超に限られ、預金については400万円超に限られている。仮に、世帯収入や預金額から抑うつ度への因果関係が存在しているとしても(本研究からは因果関係は明確でない)、うつを防ぐための300万円の所得移転は現実的ではないように思われる。

中高齢の男性については、世帯収入と抑うつ度の関係が明瞭に存在するが、自分で稼いだお金の大小によって抑うつ度が影響される(自分で稼いだお金が多い人は自分に価値があると考える)と解釈する方が自然かもしれず、そうだとすれば、年金や生活保護の充実などでは抑うつ度の低下には寄与しないかもしれない。この点については更に精査する必要がある。