ノンテクニカルサマリー

再生可能エネルギー普及促進策の経済分析~固定価格買取(FIT)制度と再生可能エネルギー利用割合基準(RPS)制度のどちらが望ましいか?~

執筆者 日引 聡 (上智大学)
庫川 幸秀 (東京工業大学)
研究プロジェクト 大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析」プロジェクト

地球温暖化防止のために、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出削減が国際的に重要な政策課題になっている。二酸化炭素の排出削減促進策の1つとして、太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーの導入促進が期待されている。再生可能エネルギーは、化石燃料を中心とした従来のエネルギーに比べて、環境負荷が小さいというメリットがある一方で、コスト高、発電の不安定性の問題という障害があるため、その導入が社会的に望ましいものであったとしても、政府による政策支援がなければ、十分普及しない。

再生可能エネルギーの導入を促進する政策手段として、近年注目されているものに、固定価格買取(Feed-in Tariff、以下では、FITと略称する)制度と再生可能エネルギー利用割合基準(Renewables Portfolio Standard、以下ではRPSと略称する)制度がある。

FIT制度は、再生可能エネルギーによる発電に対して、通常の電気料金より高い料金を設定して、非再生可能エネルギー事業者による買取りを義務付ける制度をいう。一方、RPS制度は、非再生可能エネルギーによる発電事業者に対して、その販売電力量に応じて一定割合以上の再生可能エネルギーによる発電量の調達を義務づけるものである。再生可能エネルギー発電の電力価格は、政府によって決められるのではなく、再生可能エネルギー発電市場の需給を反映して決定されるという特徴がある。

本稿では、独占的な価格支配力を持つ一般電気事業者(外部費用を伴う火力発電などの発電事業者)と、価格支配力を持たず競争的に行動する再生可能エネルギー事業者が再生可能エネルギー市場において再生可能エネルギーを取引することを前提に、FIT制度とRPS制度のどちらが経済厚生上望ましい制度かを明らかにした。

本稿で設定した市場構造の下では、RPS制度においては、小売市場では、売り手独占的企業による過少供給による非効率性、外部費用による非効率性、再生可能エネルギー市場における買い手独占企業による再生可能エネルギー過小生産による非効率性の3つの非効率性が存在する。その一方で、RPS制度の下では、一般電気事業者は、発電に応じて再生可能エネルギーを購入しなければならないため、発電の限界費用が高くなる。このため、RPS制度は一種環境税のような機能を果たし、外部費用によって生じる非効率性を是正する機能を持っている。FIT制度の下では、小売市場では、売り手独占的企業による過少供給による非効率性、外部費用による非効率性の2つの非効率性が存在する。しかし、再生可能エネルギーによる発電価格が固定されているため、再生可能エネルギー市場における買い手独占企業の価格支配力に起因する非効率性は存在しない。その一方で、RPS制度のように、発電の限界費用を高める効果はないため、環境税のように外部費用を是正する機能を持たない。RPS制度とFIT制度を比較すると、このように、デメリットとメリットが異なるため、必ずしも常に一方が他方より優れているとはいえない。

分析の結果、以下のことが明らかになった。
(1) 限界外部費用が大きい場合には、RPS制度を実施することが望ましく、逆の場合には、FIT制度を実施することが望ましいことが明らかになった。これは、限界外部費用が大きい場合、外部費用の内部化によって経済厚生のロスを減少させることが、価格支配力による経済厚生のロスを比較して、相対的に経済厚生の改善に役立つため、環境税の機能を持ったRPS制度が望ましくなり、逆の場合、小売市場や再生可能エネルギー市場での一般電気事業者の価格支配力を弱めることが相対的に経済厚生の改善に役立つためにFIT制度が望ましくなるからである。

(2) RPS制度の場合、一般電気事業者に対して適切な初期割当を実施することで、ファーストベストを実現できる。特に、私たちが現在直面する温暖化問題において、外部不経済効果を持つ火力発電を減らすことが望ましい場合には、一般電気事業者に対して、初期割当が証書保有義務量を下回るように設定することが望ましくなる。

表:一般電気事業者の市場支配力の違い
表:一般電気事業者の市場支配力の違い