ノンテクニカルサマリー

東日本大震災後のエネルギー・ミックス-電源別特性を考慮した需要分析-

執筆者 森田 玉雪 (山梨県立大学)
馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析」プロジェクト

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東京電力福島第一原子力発電所の爆発を引き起こし、電力供給への不安を生ぜしめた。そのため家庭用エネルギー需要は、量的にも質的にも変化した。特に、一部の地域で実施された計画停電の影響で国内全域に節電意識が広まったほか、電力供給源となるエネルギーの種類に対する消費者の関心も高まった。政府は今後の持続可能なエネルギー供給を実現するため、政策転換の必要性に迫られている。

このような状況を背景として、筆者らは、アンケート調査を通じて東日本大震災前後の家庭用電力需要の変化を解明する課題に取り組んだ。具体的には東日本大震災前後の消費者の節電行動およびエネルギー選好の変化を明らかにし、今後の家庭用エネルギーに対する政策のあり方を提言した。

アンケートの結果、以下のような状況が明らかとなった。まず、回答者は、震災後、節電によって家庭の電気使用量を減らした。ただし、その理由は、震災直後は「電力不足への懸念」が主であったが、半年以上経つと、むしろ、「家計のため(電気代を節約するため)」という理由が中心となった。

次に、電力の供給元となるエネルギー源のうち、太陽光・風力などの新エネルギーに水力を加えた「自然エネルギー」の比率を今後どうするべきかという質問には、2020年までには10%まで増やすことがコンセンサスとなっているが、2050年という遠い先になると40%増加を中心として、20%から50%程度増加させるべきだという回答が主流となった。

さらに、消費者が、政府が提示した「今後のエネルギー・ミックスの3つのシナリオ」を金銭的にどう評価しているかを明らかにした。原子力ゼロ%、15%、20~25%の各シナリオに対しては、原子力の比率が低く再生可能エネルギーの比率が高いほど、消費者がそのシナリオを受け入れるために支払っても良いと考える金額が高くなる傾向がみられた。平均的な傾向としては、表に示すように原子力をゼロ%として再生エネルギーを増加させるシナリオに対して、消費者は最大6%強の電気代の上昇を受け入れる余地があることが判明した。政府は、このような電源別エネルギー・ミックスに係る消費者の需要も考慮して、再生エネルギーへの転換を進める必要がある。

表:各シナリオに対する支払意思の例
ゼロシナリオ 15シナリオ 20-25シナリオ
消費者が追加的に支払える電気料金(月額、円) 625 300 200 95
注:20-25シナリオには、原子力が20%のときの値(左)と25%のときの値(右)を示している。