ノンテクニカルサマリー

文化メディアの越境流通促進のためのサービス貿易自由化

執筆者 国松 麻季 (中央大学)
研究プロジェクト 現代国際通商システムの総合的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「現代国際通商システムの総合的研究」プロジェクト

音響・映像(AV)サービス分野の自由化が進展すれば、国境を越えた文化メディアの流通の促進が期待されるが、AV分野は途上国のみならず一部先進国にとってもセンシティブな分野であることから、外国製品や外資に対する規制を持つ国も多く、自由化が進展していない。最近でも米国と欧州連合の自由貿易協定(FTA)である環大西洋貿易投資パートナーシップでAVサービスを交渉対象とするか否かが大きな調整事案となり、結果的にAVサービスは交渉対象から外されることとなった。

WTOやFTAのサービス自由化交渉において、特定の産業分野に関連するサービス分野を一括りの「クラスター」と位置付け、その自由化を目指す「クラスター・アプローチ」という手法がある。このアプローチは1999年にOECDで議論され始め、以降WTOにおいても多様なサービス分野に関してクラスター・アプローチが提案されてきた。これらには、AOL社による電子商取引、DHL社やFedex社によるクーリエ・サービス、エンロン社によるエネルギー・サービス等、特定企業のビジネス・モデルに起因して発想された場合と、欧州による環境サービスのように政策サイドから提案された場合がある。また、日本タイ経済連携協定において、日本は修理・メンテナンス、小売・卸売サービス等の「製造業関連サービス」を一括して自由化交渉の重点対象とし、外資規制の緩和などの成果を得た。クラスター・アプローチには、既存の国際約束を損なわずに関連するサービスを自由化できる、特定のビジネス・モデルに関連する規制が明らかになり政策立案が容易になる、技術革新や民営化、規制緩和等による産業活動の実態的な変化を反映できる、とりわけ、バリューチェーンの各段階に係わるサービス自由化が可能であるといった利点がある。

今日、コンテンツや文化を産業化し世界展開を狙う「クール・ジャパン戦略」がわが国の成長戦略の重要な一部として位置付けられている。そこで、文化メディア産業の海外展開に関連するサービス分野を「文化メディア・クラスター」として整理すると次の表のとおりとなる。

表1:文化メディア・サービス産業とWTOサービス貿易協定の分類(W/120)
表1:文化メディア・サービス産業とWTOサービス貿易協定の分類(W/120)
(注:下線はW/120において「AVサービス」に分類されているサブセクター)

日本の文化メディアの輸出市場として期待されるインドネシアについて「文化メディア・クラスター」に関する規制を俯瞰すると、外資出資制限やコンテンツ規制など多くの障壁があり、日本企業を含む外国企業が文化メディアのバリューチェーンを展開することが困難であるばかりか、文化メディア産業へのアプローチは現地放送局や映画館へのプログラムの提供や、限定的な分野での部分的な出資等が可能であるに過ぎないことが明らかになった。同国の自由化の程度を客観的に示して透明性を確保しつつ、外資の呼び込みを通じた市場の活性化を求める材料として有用となろう。

「クール・ジャパン戦略」を推進するにあたり、文化メディア・クラスターやより広義のクリエイティブ産業・クラスターを政策サイドからの提案として展開することが一案である。これまでは文化メディア政策の推進にあたり、通商政策は必ずしも活用されてきたわけではない。今後、海外における文化メディア市場に残存する障害を、通商政策の一環であるサービス貿易交渉によって透明化し、可能な範囲で予め除去することで、日本企業の海外展開に資することが可能である。

文化メディア分野のみならず、流通サービス等の日本が強みを有する他分野に関しても、今後の新サービス貿易協定交渉や、二国間FTA・複数国とのFTA(AJCEP、TPP等)におけるサービス交渉や見直し等の作業において、一括して関連セクターの自由化を目指すクラスター・アプローチの利用は検討に値しよう。