ノンテクニカルサマリー

国際輸送部門における環境政策に関する経済分析

執筆者 寳多 康弘 (南山大学)
研究プロジェクト 大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析」プロジェクト

世界的な貿易と直接投資の拡大が続く中、資源、中間財および最終財といった物品の国際輸送、さらにビジネスや観光目的の国際旅客輸送も増加の一途である。この結果、国際海運と国際航空からの温室効果ガスの排出量が急増している。

経済協力開発機構(OECD)によると、1990年と2008年の二酸化炭素排出量を比べると、国際海運については63%増、国際航空については76%増である。今後も排出量は増加することが予想されており、何らかの対策が求められている。しかし、国際海運と国際航空(以下では国際輸送)の性質上、排出の責任をどの国が持つかを決めることが困難なため、気候変動枠組条約(UNFCCC)・京都議定書の規制対象外となっており、専門の国際機関である国際民間航空機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)に規制はゆだねられている(京都議定書2.2条を参照)。

ICAOやIMOでは、経済的手法による温暖化対策が有効な手段として検討されている。その中に、各国の国際航空産業(あるいは国際海運産業)の間での国際的な排出量取引制度の導入案がある。世界の国際輸送の汚染排出源を一律に規制できるという意味で、効率的な排出削減が可能となる。

本研究では、国際輸送サービス産業における国際的な排出量取引制度の創設が、各国の経済厚生に及ぼす影響を理論的に考察している。国際輸送サービスは財を外国から輸入する際に不可欠なサービスで、財に対する需要の派生需要である。国際排出量取引は国際輸送サービスの生産に影響を与えて、間接的に財貿易に影響を与える。

重要な分析結果は次の通りである。2国の国際輸送サービス部門の間での国際排出量取引によって、排出枠の売買価格に依存せず、国際輸送サービス輸入国は得する。しかし、国際輸送サービス輸出国は、排出枠の売買自体からの利益をすべて独り占めしたとしても、国際排出量取引によって損失を被るかもしれない。

この結果の興味深い点は、国際輸送サービスの貿易パターンが、国際排出量取引の厚生効果に決定的に効いているという点である。言い換えれば、国際排出量取引の開始前における環境技術や環境規制の格差が、排出枠の売り手・買い手を決めるが(たとえば、環境規制の緩い国は排出枠の売り手になる)、排出枠の売り手になるか買い手になるかは厚生効果に影響を与えないのである。

貿易統計によると、日本の輸送収支の海上輸送貨物収支は、2000年代の初期は赤字であったが、2000年代後半から2012年は黒字である。航空輸送貨物収支は、2000年~2012年は一貫して黒字である。つまり、日本は本研究における国際輸送サービスの輸出国といえる。よって、日本は排出枠の取引価格に十分に留意することが必要である。もし排出枠の買い手となる場合は、排出枠をできるだけ安く購入して、排出量取引自体からの利益をできるだけ大きくすることが重要である。

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