ノンテクニカルサマリー

起業活動に影響を与える要因の国際比較分析

執筆者 高橋 徳行 (ファカルティフェロー)
磯辺 剛彦 (慶應義塾大学)
本庄 裕司 (中央大学)
安田 武彦 (東洋大学)
鈴木 正明 (日本政策金融公庫総合研究所)
研究プロジェクト 起業活動に影響を与える要因の国際比較分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「起業活動に影響を与える要因の国際比較分析」プロジェクト

わが国の起業活動は、平成以降、停滞を続けており、時系列での比較が可能な「事業所・企業統計調査」によると、最近20年間は、ほとんどの期間で廃業率が開業率を上回り、企業数の純減が続いている。また、国同士の比較が可能なグローバル・アントレプレナーシップ・モニター(Global Entrepreneurship Monitor:GEM)調査の結果を見ても、調査が始まった1999年以降、日本の起業活動の水準は先進国の中でも最も低いグループにとどまっている。

しかしながら、起業活動のプロセスを次の図表1のように分解すると、起業態度を有するグループ(起業家予備軍)からの起業率に関しては、日本は米国並みの水準であり、英国やドイツなどの欧米諸国を上回っている。日本の起業活動が不活発な原因は、起業態度を有しないグループが圧倒的多数を占めていることであり、起業態度を有している一部のグループ(起業家予備軍)における起業活動はむしろ活発である。

この結果から言えることは、日本においては、起業態度に働きかける政策(起業態度無しのグループを起業態度有りのグループに変換するための政策)が非常に有効であるということである。具体的には、身近な起業活動を知る機会を増やすこと、起業家というキャリアとしての選択肢をわかりやすく示すこと、起業家として必要な経験や能力を獲得させること、そして起業活動の経済社会における役割を教えることなどの起業家教育が重要である。すでに起業態度を有した人を対象とした政策(専門家による具体的なアドバイス、融資制度など)の重要性を否定するものではないが、力点の移動が必要であろう。

図表1:起業プロセス
図表1:起業プロセス

しかし、このような政策を展開する上で、起業態度を有してないグループの特徴を知っておくことは重要である。図表2は起業活動浸透、事業機会認識、そして知識・能力・経験の3つの起業態度のうち、いくつの態度を有しているかの数別に起業活動に対しての評価がどのように異なっているのかを見たものである。

ここからわかることは、日本において全く起業態度を有していない人たち(「0」の人たち)の約4人に1人だけが「あなたの国の多くの人たちは新しいビジネスを始めることが望ましい職業の選択であると考えている」という質問に対して「はい」と答えていることである。つまり、4人中3人は、起業家は望ましいキャリアでは「ない」と言っている。しかも、そのような人たちが全体の約7割を占めている(図表なし)。一方、米国などの他の先進国では、起業態度を全く有していない人でも半分以上は、起業家は望ましい職業であると回答している。

つまり、日本では、起業態度を有していない人の割合が大きいだけではなく、そのようなグループにおける起業活動に対する評価も他の国と比べて低い。

以上をまとめると次の通りである。

起業態度に働きかけることができれば、その効果は、他の先進国よりもはるかに大きなものを期待できる。しかしながら、日本においては起業態度を有していない人の割合が圧倒的に大きく、かつ起業態度を有していない人の起業活動に対する評価が低いことを踏まえて、そのような働きかけを行う必要がある。

図表2:起業態度の「数」別にみた(起業家という)職業選択に対する評価(起業家は望ましい職業とする割合)
図表2:起業態度の「数」別にみた(起業家という)職業選択に対する評価(起業家は望ましい職業とする割合)