ノンテクニカルサマリー

食料の輸出数量制限に対する規制の有効性

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバル化と人口減少時代における競争力ある農業を目指した農政の改革」プロジェクト

世界の食料貿易は、農産物貿易政策によって歪曲されたものである。関税や非関税障壁については、ガットやWTOによって規制がなされてきた。しかしながら、輸出についての政策については、これまでほとんど規制されてこなかった。

この結果、たとえば2008年穀物価格が3倍に上昇した際、インドや中国などの国は、輸出を制限する措置を講じ、フィリピンなどの穀物の輸入国では食料危機が発生した。

2012年アメリカの干ばつによる減収予測から、トウモロコシと大豆の国際価格は史上最高の水準で推移した。このような世界的な穀物価格の上昇を受けて、輸出国による輸出制限に対し規制を行うことが、国際社会の関心事となった。ロシアのウラジオストクで開かれた、APEC首脳会議においては、この問題が取り上げられた。

しかし、小麦や大豆などの主要穀物については、表-1が示す通り、上位輸出国のほとんどが、生産の太宗を輸出に向けている先進国であり、これらの国が生産の減少等によっても輸出を減少させることは考えられない。また、表-2が示す通り、2008年に輸出を禁止した国の貿易量に占めるシェアは大きなものではない。コメについては、例外的に途上国が輸出国となっており、さらに、2008年に輸出を禁止した国の貿易量に占めるシェアは大きなものとなっている。しかし、国内で飢餓が生じているときに、これらの国に輸出を行うよう、要求することは現実的ではない。また、コメについては、日本は国内のコメ市場を高い関税によって国際市場から隔離し、国内生産で自給しており、海外からの輸入に依存しているものではない。つまり、ほとんどの穀物について、上位輸出国によって輸出制限が行われる可能性は低く、また、その可能性が高いコメについて、我が国は輸出制限に対する国際規制を必要としない。これまで、我が国はWTO交渉で輸出制限に対する国際規制の必要性について提案してきたが、それは実体的な利益を反映しないものだった。

表1:主な国の小麦輸出量と生産量に占める割合
表1:主な国の小麦輸出量と生産量に占める割合
表2:小麦の輸出規制国のシェア
表2:小麦の輸出規制国のシェア
出所)USDA, Production, Supply and Distribution databaseより作成