ノンテクニカルサマリー

産業政策の生産性効果:戦後日本における輸入数量制限撤廃のケース

執筆者 清田 耕造 (ファカルティフェロー)
岡崎 哲二 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 産業政策の歴史的評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム (第三期:2011~2015年度)
「通商協定の経済学的分析」プロジェクト

第二次世界大戦後に通商産業省が立案・実施した産業政策は、今日、開発途上国の実務家から強い関心を持たれているが、研究者の間ではその評価は大きく分かれている。その理由は、適切なデータを用いた定量的な分析が十分に行われていないことにある。このDPでは、1960年代前半に実施された輸入に関する事実上の数量制限撤廃に焦点を当てて、産業政策の効果に関する定量的な評価を行った。

1950年代の日本では外国為替割当制度を通じた事実上の輸入数量制限が行われていたが、海外からの圧力などによって、輸入数量制限は1960年代前半に急速に撤廃された。「貿易自由化」と呼ばれるこの出来事は戦後日本経済史上の重要な画期とされ、多くの基本的な文献において日本経済の発展に大きなプラスの効果をもたらしたと評価されてきた。しかし、輸入数量制限撤廃が、日本の産業にどのような効果をどの程度与えたかについて定量的に分析されてこなかった。

この論文では、『工業統計表』からデータが得られる100の産業について、その主要製品に関する輸入数量制限撤廃の時期を、通産省のオリジナルな資料(「輸入公表」)から特定し、その前後で、産業の生産性にどのような変化が生じたかを計量経済学の方法を用いて検証した。数量制限撤廃の時期が産業によって相違するため、各産業に固有な要因および各年に固有な要因を取り除いて、数量制限撤廃の効果だけを取り出すことができる。

分析を通じて、数量制限撤廃の1年後に産業の労働生産性が4%程度上昇するという結果が得られたが、一方でその効果は数量制限撤廃の前後に行われた関税率の引き上げによって減殺される傾向があった。下の図は1960年と1961年における関税率の分布を示している。以上の結果は、1960年代の輸入数量制限撤廃が、関税率の引き上げとセットで行われたために、これまで信じられていたほどのプラス効果を産業に与えなかったことを示している。

図