ノンテクニカルサマリー

日本の信用ネットワークのDebtRank解析

執筆者 青山 秀明 (ファカルティフェロー)
Stefano BATTISTON (チューリッヒ工科大学)
藤原 義久 (兵庫県立大学)
研究プロジェクト 中小企業のダイナミクス・環境エネルギー・成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「中小企業のダイナミクス・環境エネルギー・成長」プロジェクト

本論文では、日本の銀行から企業への貸付金のデータを用い、銀行と企業が構成するネットワーク(図1)の解析を行った。この解析では、「困窮度」変数を各エージェント(銀行・企業)に割り振り、それがどのように伝播していくかを、貸付金の相手先の総額に対する比率でモデル化することで、この信用ネットワーク内での銀行の重要性や脆弱性を診断する。

まず第1に、特定の銀行に最大困窮度を与えて、それを上記のようにネットワーク全体に波及させる。そして、各銀行と企業の総資産で重みをつけた平均値を計算する。この量は、当初の銀行が困窮した際に、それが信用ネットワーク全体にどのような被害を及ぼすかの測度となるので、その銀行の重要性が測定できる。それが図2であり、大きな銀行は平均として重要であることが示せた以外に、その平均が銀行の大きさに非線形に依存すること、銀行の個性に応じて重要度が異なることなどが明確となった。また、この非線形性はべき指数が1より大きいべき乗則であることから、銀行の合併に関して、同じ大きさの銀行の合併が最も利得があるという汎用則が得られた。

第2に、上記の手法を用いて、経済危機の種類に応じた各銀行や各業種の脆弱性の診断を行った。ここでは、1) 全製造業、 2) 全非製造業について、それらに属するすべての企業に最大困窮度を与え、それから派生する困窮度を測定し、脆弱性を判定した。その結果、都市銀行が比較的両方に対して安定であること、また地方銀行についてはどちらかに偏って脆弱であることなどが判明した。さらに、このデータベースに使われた33業種すべてについて、各銀行の脆弱性を計算した。

本論文により、銀行-企業の貸借関係によって構成される信用ネットワークの解析手法が確立したのみならず、各銀行の重要度、脆弱性について多くの知見が得られ、政策・実務へ重要な情報を適用できたと考えられる。

図1
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図2
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