ノンテクニカルサマリー

資源輸入国企業による権益獲得と利益の分配

執筆者 東田 啓作 (関西学院大学)
研究プロジェクト 大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析」プロジェクト

新興経済国が経済成長を実現する中で、グローバルな資源需要が高まってきている。一方で、資源は偏在しており、たとえばレアメタルにおいて、偏在は顕著である。航空宇宙、原子力産業で用いられるベリリウムは世界生産の77%がアメリカで生産されている。また、鉄鋼の強度を高めるニオブはその90%がブラジルで生産されている。他のレアメタルについては下の表のとおりである。

【レアメタル偏在性の例(主要生産国のシェア:2001年)】
ニッケル ロシア(21%) 豪州(17%) カナダ(16%) <54%>
クロム 南ア(42%) カザフスタン(30%) インド(16%) <90%>
タングステン 中国(83%) ロシア(8%) オーストリア(4%) <95%>
コバルト コンゴ(19%) ザンビア(19%) 豪州(18%) <56%>
モリブデン 米国(29%) チリ(26%) 中国(22%) <77%>
マンガン 南ア(20%) ウクライナ(13%) ガボン(12%) <45%>
バナジウム 南ア(40%) 中国(37%) ロシア(21%) <98%>
注)<>は上位3ケ国のシェア
出典:MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2002

*資源エネルギー庁・「鉱物資源政策について」のHPより抜粋
http://www.enecho.meti.go.jp/policy/mineral/mineral01.htm

このような状況において、資源輸入国の企業が資源権益を獲得すること、および資源輸入国政府がその支援をすることは、資源輸入国、資源輸出国それぞれの厚生にどのような影響を与えるのだろうか。本稿では、特に資源採掘から得られる利益が、資源輸入国と輸出国との間でどのように分配されるのかに焦点を当てている。結論では、一方の資源輸入国企業が資源採掘企業から権益を取得する場合、すべての国の厚生が増加することを明らかにしている。これは、上流である資源採掘部門の市場集中度の高さによる過少供給の問題が緩和されるためである。資源輸入国政府による資源輸入企業への補助金は、その権益獲得を促進する。しかし、その補助金の一部は権益価格交渉における権益価格の上昇を通して、資源採掘企業へレントシフトする。このため補助金を拠出した国の厚生は低下する可能性がある。さらに、本稿は資源輸入国企業が自社で資源探鉱・鉱山開発を行うケースの分析も行っている。この場合、レントシフトが起こらないため、権益獲得の増加は資源市場における価格低下を通して、資源輸出国の厚生を低下させる可能性があることを明らかにしている。

さて、現実にも、資源輸入国企業が資源メジャーから権益を取得する場合がある。そのような場合、その獲得量は世界厚生の観点からは過少である。したがって、政府のサポートは世界厚生を増加させる可能性が高い。しかし、サポートを行った企業は、資源採掘企業に権益価格を支払う。この価格上昇によるレントシフト効果が大きいと、必ずしもその資源輸入国の厚生が上昇するとは限らない。このような場合には、政府自身が交渉に乗り出すことも必要かもしれない。特に、政府が資源輸出国に対して、技術支援やインフラ整備支援などの交渉カードを持っている場合には、効果的な可能性がある。また、資源輸入国企業は、他の資源輸入国企業との協調・結託を模索すべきである。

一方で、しばしば資源輸入国企業は自社で探鉱・開発を行う。このような場合、これがその国の厚生の観点から望ましいかどうかは、採掘コストに依存している。採掘コストが高い段階では、資源輸入国政府は、資源探鉱をサポートするだけでなく、採掘コストを下げるための技術開発への支援も積極的に行う必要がある。