ノンテクニカルサマリー

自製するか外注するかの意思決定に技術協力はどう関わるか? 日本の自動車部品調達に関する所有権アプローチに基づく実証分析

執筆者 竹田 陽介 (上智大学)
打田 委千弘 (愛知大学)
研究プロジェクト 我が国の企業間生産性格差の規定要因:ミクロデータを用いた実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「我が国の企業間生産性格差の規定要因:ミクロデータを用いた実証分析」プロジェクト

本研究では、浅沼(1989;1992)で提示された日本の自動車部品調達に関する仮説(以下、浅沼仮説と呼ぶ)について実証分析を行う。日本の自動車部品企業(主に、一次下請け企業)に関する浅沼仮説は、製品開発や生産工程における部品企業のイニシアティブの程度に応じて形成される「関係特殊的技能」の多様性を指摘する。浅沼仮説に関する先行研究(Milgrom and Roberts, 1992; Holmstrom and Roberts, 1998)においては、部品企業が加盟する技術協力団体の役割について、部品企業が交流することにより、自動車組立企業の都合のよい不正行為の事例を察知し、未然に防ぐ点に焦点が当てられてきた。

本研究では、先行研究とは異なり、技術協力団体への加盟を契約上明記されない投資として考え、所有権アプローチのWhinston(2003)モデルに基づきながら、浅沼仮説の妥当性を実証的に分析する。

3つの特定化されたモデルにおける比較静学分析は、自動車組立企業と自動車部品企業の両者において、契約上明記できない投資や獲得した関係特殊的技能の特殊性の程度が、垂直的統合の可能性を左右することを示す。その理論的含意に基づきながら、親子関係を有する企業が技術協力団体に加盟するか否かを表す質的変数、関係特殊性の程度を表す変数が、垂直的統合にどのような効果をもたらすかを推定する。これらの変数の有意性や符号条件から、関係特殊的技能が外生的に与えられるモデルのほか、自動車組立企業ではなく、部品企業そのものが技術協力団体への加盟を通じた関係特殊的技能の蓄積を生むモデルの妥当性が示される。日本の自動車部品調達において、部品企業のイニシアティブを重視する浅沼仮説は生きていることがわかる。

図1は、技術協力団体に加盟している企業の産業別構成比の推移を示している。2001年以降、輸送用機械産業の割合が低下している一方で、化学関連産業、鉄鋼・金属関連産業などの川上産業、精密機械産業他、サービス産業の比重が相対的に高まっており、ハイブリッド車や電気自動車などの技術革新に伴う変化が読み取れる。

本研究の分析結果は、自動車産業の技術革新に対応して、技術協力団体に加盟する部品企業が、自前の投資により関係特殊的技能を蓄積している姿を反映している。地震災害などヘッジすることが困難なリスクに対して、政策当局には「関係特殊的技能」への投資に対する財政的なサポートが求められ、ひいては自動車産業の競争力の維持に役立つと考えられる。