ノンテクニカルサマリー

日本企業における外部技術の獲得と補完的資産の関係に関する実証研究

執筆者 蟹 雅代 (帝塚山大学)
元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト オープンイノベーションの国際比較に関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「オープンイノベーションの国際比較に関する実証研究」プロジェクト

新商品開発プロセスにおけるオープンイノベーションについての関心が高まる中、ライセンシングなどによる技術導出に関する実証研究は数多く存在するが、技術獲得に関するものは少ない。本論文においては、2011年に行われた「新商品・新サービス開発についてのアンケート調査」(経済産業研究所)(以下、「新商品アンケート」と略す)のデータを用いて、技術獲得の相手先がビジネスパートナー(サプライヤーか顧客)であるか否かで技術獲得の決定要因がどう異なるかについて分析した。

まず、新商品アンケートで回答を得た3705社のうち、38%の1390社において過去3年間に何らかの新商品・サービスの開発が行われた(なお、ここでの新商品・サービスの定義はOECDのオスロマニュアルによる)。そのうち、同商品・サービスの開発を主に企業内で行った企業が1199社存在し、更にそのプロセスにおいて外部技術の導入を行った企業が436社、すべて自前で行った企業は642社となった。主に外部開発として企業も含めた外部連携企業は全体の約半数となり、日本企業においてもオープンイノベーションが浸透していることを示している。ただし、外部技術獲得企業のうち、その半数以上(288社)は技術の獲得先が顧客やサプライヤーなどのビジネスパートナーとなっている(下図参照)。

図

主に内部によって新商品開発を行った1199社について、外部技術を獲得したかどうか、またその場合、技術パートナーがビジネスパートナーと同じかどうかについて、実証研究を行ったところ、技術パートナーがビジネスパートナーと異なる場合(以下、T ≠ Bと略す)は、特許によって技術の権利化を行っている企業において外部獲得をより行っていることが分かった。一方、両者が同じ場合(以下T = Bと略す。)は、自社において補完的資産を有しない場合(たとえば、自社の主要ビジネスと違う分野での新商品開発)において技術獲得が活発に行われ、自社においては技術開発に注力しながら、マーケティング資産などの補完的資産についてはパートナーに頼る役割分担が行われていることが分かった。

オープンイノベーションを進めるための政策として、産学連携やプロパテント政策などが議論されることが多いが、純粋な技術取引に関するT ≠ Bの場合は有効であるが、顧客やサプライヤーとのビジネス取引において行われる技術のやり取りとは関係ない。今回のアンケート調査において、オープンイノベーションのパターンとしてはむしろ後者の方が多いことが分かったので、オープンイノベーションをビジネス取引の一環として進めていくための方策が重要と考えられる。たとえば、サプライヤーネットワークを支える技術力のある中小企業の育成や大企業とのマッチング機会の提供などの政策が有効であると考えられる。