ノンテクニカルサマリー

日本における外国人旅行者の地理的集中

執筆者 田中 鮎夢 (研究員)
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

問題意識

日本政府は、2013年までに訪日外国人旅行者数を1500万人にするというビジット・ジャパン・キャンペーン(訪日旅行促進事業)に取り組んでいる。同事業開始以後、2008年以降の世界経済危機の影響があったにも関わらず、訪日外国人は2003-2009年平均で3割増加している。

しかしながら、本研究が示すように、訪日外国人の宿泊先は東京をはじめとする一部の都道府県に集中しており、訪日外国人宿泊者数には顕著な地域格差が存在する。たとえば、2009年に四国4県に宿泊した外国人は、日本で宿泊した外国人全体のわずか0.48%に過ぎない。一方で、同年、東京に宿泊した外国人は、日本で宿泊した外国人全体の34.86%に達する。

本研究は、訪日外国人宿泊者数の地域格差の実態を明らかにするとともに、各都道府県の訪日外国人宿泊者数の決定要因を探るものである。

主要な分析結果

本研究は、従業員10人以上のすべてのホテルを対象とした『宿泊旅行統計調査』(観光庁)の2007-2009年のデータを用いて分析を行った。主要な分析結果は次の4つである。

  1. 外国人宿泊日数は、日本人宿泊日数よりも人気のある都道府県への地理的集中が顕著である。
  2. 経済活動全般の分布に比較しても、外国人宿泊日数の地理的集中は顕著である(下図)。
  3. 地理的集中の程度は、旅行者の出身国によって大きく異なる。
  4. 伝統的な重力変数(経済規模・距離)だけでなく、ビザ免除措置、交通インフラ、自然・文化要素賦存も、外国人宿泊日数と関係していることが見いだされた。

図:外国人宿泊日数に関するローレンツ曲線(2009)
図:外国人宿泊日数に関するローレンツ曲線(2009)
注:横軸に各県のGDPシェアをとり、縦軸に各県の外国人宿泊日数のシェアを取っている。45度線より離れているほど、経済活動全般の分布に比較しても、外国人宿泊日数が一部の都道府県に集中していることを意味する。

政策含意

本研究は、訪日外国人の宿泊先が一部の都道府県に極端に集中していることを初めて明らかにした。このような顕著な訪日外国人宿泊日数の地域格差を是正するには、日本全体ではなく各地域に焦点をあてた政策を実施し、外国人の来訪を促進していくことが必要であろう。実際、日本政府は、各地の運輸局が中心となって、ビジット・ジャパン・キャンペーン地方連携事業を実施し、地元自治体と連携・共同して地域の認知度向上事業・誘客事業に取り組んでいる。そうした取り組みを支えるようなさらなる学術研究が今後求められる。