ノンテクニカルサマリー

輸出が日本の労働者に及ぼす影響:企業レベルデータによる分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の創生と貿易・直接投資の研究」プロジェクト

問題意識

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP) 交渉や非正規雇用改革にあたって参考になる基礎的な学術情報を提供するため、本論文において輸出が雇用に与える影響について分析を行った。

日本は、2000年代、輸出を拡大した。2000年に約11%だったGDPに占める輸出の割合は、2007年には約18%にまで上昇している。その一方で、国内労働市場においては、非正規労働者の割合が急速に高まった。非正規比は、2000年には約26%だったが、2010年には約34%に及んでいる。

こうした非正規労働者の増加という新しい状況を踏まえて、輸出が国内労働市場に及ぼす影響を精緻に分析することが必要になってきている。本研究は、非正規労働者(派遣労働者・パート労働者)の存在を明示的に考慮し、輸出の国内労働者への影響を精緻に計量分析した最初の研究である。

主要な分析結果

『企業活動基本調査』(経済産業省、2001--2008)からのデータを用いて、製造業・卸売業につき分析した。主な分析結果は次の3点である。

  1. 輸出が雇用成長率を高める効果は、製造業において確認されたが、卸売業においては確認されなかった。製造業において、輸出開始は、輸出開始後3年にわたって、雇用成長率を4~6%程度押し上げる(図参照)。
  2. 製造業と卸売業において、一般に、輸出が非正規比上昇に与える効果はほとんどない。
  3. ただし、アジアや北米・欧州それぞれにのみ輸出を開始した一部の製造業企業に限っては、輸出が派遣労働者の比率を高める効果が確認された。
図:輸出が雇用成長率に及ぼす効果(製造業)
図:輸出が雇用成長率に及ぼす効果(製造業)
(注)輸出開始後、1、2、3年後に雇用成長率が、4.6%、6.2%、6.3%それぞれ高まる。1対1最近隣対応法に基づく計算結果(論文表6参照)。

政策含意

TPPをはじめ、輸出の促進は重要な政策課題である。同時に、輸出によって、国内労働市場にどのような影響が及ぶのか吟味する必要がある。本研究は、輸出が、製造業において、雇用成長率を引き上げる効果を持つ一方で、一部の企業を除いて、一般には輸出が非正規比を上昇させる効果がないことを確認している。輸出を開始した際の効果に着目した分析の限界はあるが、2000年代の輸出と国内労働者との関係を解明した本研究は、非正規労働者の顕著な拡大に輸出は寄与していない可能性があることを示唆する。