ノンテクニカルサマリー

中国の輸入は為替変動に反応するか

執筆者 THORBECKE, Willem (上席研究員)/SMITH, Gordon (Anderson College)
研究プロジェクト East Asian Production Networks and Global Imbalances
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks and Global Imbalances」プロジェクト

中国の輸入の大部分は再輸出品生産に用いられている。中国向け輸入の2つの大きな流れ(加工用輸入と通常輸入)を見れば明らかである。加工用輸入はもっぱら再輸出品の生産に使用される。図に示したのは通常輸入の推移であるが、全体の35%を鉱物・木製品、石材、ガラス、25%を機械・電気製品、15%を化成品および関連製品、プラスチック、ゴム製品が占めるようになっており、中国の通常輸入の大部分は、消費財ではなく生産用材料であることを示している。

このように再輸出用品を生産するための輸入が中国の輸入の大部分を占めることから、為替レートの変動が輸入量に及ぼす影響が推計しづらくなっている。人民元高は輸出全体を押し下げるが、再輸出用品生産目的の輸入も同様に押し下げられる。人民元高は国内輸入業者の購買力と輸入力を高めるが、この効果は必ずしもデータに表れない可能性がある。なぜなら、人民元高は輸出を減少させ、その結果、輸出品生産目的の輸入も減少させるからである。

この問題を回避するため、再輸出の影響を取り除いた上で、為替レートの変化が中国の輸入に及ぼす影響を推計した。その結果、輸入と輸出は密接に関連しており、人民元が10%切り上がると加工用・通常輸入が3~4%押し上げられることがわかった。

近年、中国は重工業に投資している。中国のサプライチェーンは深化が進み、産業活動はより高付加価値創出型へとシフトしている。この結果、中国で生産された高付加価値な製品とその他のサプライチェーン諸国で生産された製品との間の輸入代替性が高くなっている。また、中国では特にヨーロッパからの消費財の輸入が増加している。このトレンドが続くにつれ、為替レートに対する中国の輸入感応度が高まるはずである。したがって人民元高には、中国の輸入を押し上げ、中国経済のバランスを回復させる効果があるはずである。中国の政策当局は、自国通貨が強くなると中国の対外購買力が増し、消費者や企業に恩恵がもたらされるという事実を認識すべきだ。

図:業種別通常輸入(合計値の割合)
図:業種別通常輸入(合計値の割合)