ノンテクニカルサマリー

技術と資本の調整費用:自動車の電子制御化が自動車部品事業所に与えた影響に関する実証分析

執筆者 打田 委千弘 (愛知大学)/竹田 陽介 (上智大学)/白井 大地 (キヤノングローバル戦略研究所)
研究プロジェクト 産業・企業の生産性と日本の経済成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「産業・企業の生産性と日本の経済成長」プロジェクト

図:自動車部門、自動車部品・同付属品部門の産出量デフレータの推移(JIP2010)
図:自動車部門、自動車部品・同付属品部門の産出量デフレータの推移(JIP2010)

上図は、日本における自動車および自動車部品同付属品の市場価格の推移を表わす(JIPデータベース2010)。両者は、1990年代半ばまではほぼ並行した推移を示したものの、それ以降、自動車組立産業の価格が上下に変動しながら上昇傾向を示す一方、自動車部品・付属品の価格は、一貫して低下傾向にある。この自動車部品の相対価格の低下は、ハイブリッド車に見られる自動車の電子制御化に伴う技術革新を指していると考えられる。

本研究は、自動車の電子制御化をGeneral Purpose Technologyとして捉え、日本の自動車部品産業の事業所の資本において、如何なる調整費用が発生したかについて定量的に分析した。具体的には、電子制御化の技術として、電子制御燃料噴射装置(PET)・電動パワーステアリング(EPS)・ABS・エアバッグ・ナビゲーション・ワイヤーハーネス・リチウムイオン電池の7つの技術を取り上げた。

推定では、事業所レベルのデータである『工業統計表』および各技術に関する特許の取得データを用いた。推定の結果、自動車の電子制御化の導入は、日本の自動車部品事業所の設備投資を可逆的にすると同時に、事業所のリストラ・労働者の再訓練・組織改編などによって起こる事業所の規模に比例する固定費用が顕著になったことがわかった。

労働者の再訓練が必要になる原因として、技術者に要求される技術知識が、従来までの機械工学のみならず電気電子工学も付加されたことが考えられる。そのため、労働者の再訓練による調整費用がもたらす生産の損失を抑えるための政策として、自動車部品産業と電気機械産業の地域集積・人的交流を通じて、工学全般に高い水準の知識をもつ標準化人材の育成を奨めることが望まれる。