ノンテクニカルサマリー

サービス産業のエネルギー効率性-事業所データによる実証分析-

執筆者 森川 正之 (副所長)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「サービス産業生産性向上に関する研究」プロジェクト

問題意識

経済成長と環境の両立が重要な政策課題となっており、再生可能エネルギーの普及拡大、社会システムに踏み込んだエネルギー需給構造の改革等が進められている。また、東日本大震災に伴う原子力発電所事故の結果、電力消費量の抑制が喫緊の課題となっている。

日本の温室効果ガス排出量は2008年度12億8200万トンで基準年(1990年度)に比べて+1.6%となっている。部門別に見ると、製造業の工場等からなる産業部門は基準年比でマイナス13.2%と大きく減少しているが、運輸部門は+8.3%、業務部門は+43.0%、家庭部門は+34.2%となっており、サービス産業の事業所を中心とした業務部門での増加が著しい。エネルギー消費量に占めるサービス産業のシェアは、1990年度の13.5%から2008年度には18.8%へと増大しており、製造業の原単位は大幅に改善しているのに対して、サービス産業はむしろ悪化している。サービス産業の多くは「生産と消費の同時性」という製造業とは異なる特性を持っているため、人口密度等の都市構造がエネルギー効率に大きく影響を及ぼす。

都市構造とエネルギー消費の関係については多くの先行研究があるが、サービス産業の事業所レベルでのエネルギー消費についてマイクロデータで分析したものは少ない。こうした状況を踏まえ、本稿では、サービス事業所のエネルギー効率性について、サービス産業を網羅的にカバーする「エネルギー消費統計」の事業所レベルのマイクロデータを用いて密度の経済性に着目しつつ分析を行った。

分析結果のポイント

分析結果によれば、業種構成の違いをコントロールした上で、人口密度が高い地域ほどサービス事業所のエネルギー効率が高い。量的には、産業の違いをコントロールした上で、事業所が立地する市区町村人口密度が2倍だとエネルギー原単位がマイナス12%前後低い(すなわちエネルギー消費効率が高い)という関係である。このうち、大きな部分が土地生産性や労働生産性の違い並びに気候条件の違いで説明される。すなわち、地価・賃料が高いため土地を非集約的に使用する傾向があることが、大都市でサービス産業のエネルギー効率の高さにつながっていると解釈できる。

図:サービス事業所のエネルギー原単位の人口密度に対する弾性値
図:サービス事業所のエネルギー原単位の人口密度に対する弾性値

インプリケーション

本稿の分析結果は、サービス経済化が進む中、都市の集積を阻害するような土地利用規制等の緩和や都市中心部のインフラ整備が、環境と成長の両立に寄与する可能性、また、コンパクトシティの普及がCO₂排出抑制のために有効な政策となる可能性を示唆している。逆に、人口や事業所の地理的な分布を所与とした場合には、日本全体のエネルギー効率改善のためには大都市よりも人口密度が低い地域のサービス事業所のエネルギー効率性を向上させることが重要であること、CO₂排出量抑制という意味ではそうした地域において太陽光・風力をはじめとするクリーン・エネルギー供給の拡大が重要なことを示唆している。

東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所事故の影響により東京電力管内を中心として中期的に電力需給の逼迫が続くと予想されている。こうした中、サービス産業のエネルギー使用の効率化の重要性は一段と高まっており、エネルギー効率の高い都市構造としていくことがこれまで以上に必要となっている。