ノンテクニカルサマリー

日本経済成長の源泉はどこにあるのか:ミクロデータによる実証分析

執筆者 深尾 京司 (ファカルティフェロー)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「サービス産業生産性向上に関する研究」プロジェクト

本論文では、『事業所・企業統計調査』と『企業活動基本調査』の個票データを利用して、どのような特性を持つ企業が経済全体の雇用創出、資本蓄積、全要素生産性(TFP)上昇に寄与しているのか、また、どのような産業が雇用創出の源泉なのかについて分析した。

得られた主な分析結果は以下の通りである。

(1) 比較的社齢の低い企業や外資系企業が参入や成長を通じて雇用を創出している。外資による雇用の増加は、大部分がM&Aを通じてではなく、新規参入を通じて生じた。米国センサス局の企業パネルデータを用いたHaltiwanger, Jarmin, and Miranda (2010) は、雇用創出の決定要因として企業の年齢が若いことが重要であるという結果を得ているが、日本でも同様の現象が見られると言えよう。

(2) 比較的社齢の低い企業が活発に資本蓄積を行ったのに対し、社齢の高い企業や日本企業の子会社の資本蓄積は停滞していた。雇用創出や設備投資の回復、生産性上昇を考える上で、社齢の若い企業や外資系企業の役割が重要であるといえよう。

(3) 雇用増加の大部分はサービス産業において生じており、雇用喪失のほとんどは生産の海外移転やリストラが続いた製造業や公共事業が減った建設業で起きた。雇用創出に関する分析結果をまとめれば、雇用創出の原動力は、サービス産業を中心とした成長産業における、若い独立系企業や外資系企業であるといえよう。通信、金融・保険、対家計サービス、対事業所サービスといった産業では、大規模企業群に占める若手企業の雇用シェアが意外に高く、また外資系の浸透も進んでいる。規制緩和など優良な新規参入企業が成長できる環境や、マクロ経済政策の適切な運営等、条件が整えば、雇用創出と新陳代謝機能の促進が実現できる可能性は、十分に高い。

(4) 製造業、非製造業ともに、大企業や外資系企業のTFP水準やTFP上昇率が比較的高い。また、社齢が高いほど、製造業では輸出や研究開発を活発にしている企業ほどTFPは水準・上昇率共に高かった。一方、社齢が高い独立系中小企業(製造業の場合、その多くは国際化や研究開発面で出遅れている)のTFPは水準・上昇率共に低い。この2つの企業群の生産性格差は、一貫して拡大傾向にある。社齢が高い独立系中小企業については、企業改編の促進、M&Aによる新たな経営資源の導入、国際化や研究開発の支援、等の対策を検討する価値があろう。企業の生産性と経済成長の関係は、図のような概念図にまとめることができよう。

図:企業の生産性と経済成長の関係:実証分析に基づく概念図
図:企業の生産性と経済成長の関係:実証分析に基づく概念図

(5) 我々は次に、生産性動学分析を行った。日本のTFP上昇の主要な源泉は製造業を中心とした存続事業所内での生産性上昇の効果である内部効果にあることが分かった。製造業のTFP上昇の加速に大きく寄与した産業は分析期間と関係なく、電機産業で、非製造業の場合には不況期では卸売・小売業が、好況期ではサービス業であった。製造業の大企業の多くは、活発な研究開発や国際化を進め、TFPは水準・上昇率共に高いが、生産規模を拡大していない。生産性の高い製造業企業がなぜ国内で生産を拡大しないのか、生産の海外移転の影響等についてより詳しい分析が望まれる。