ノンテクニカルサマリー

日本企業の人的資源管理と生産性-インタビュー及びアンケート調査を元にした実証分析-

執筆者 宮川 努 (ファカルティフェロー)
西岡 由美 (立正大学)
川上 淳之 (RIETIリサーチアシスタント / 学習院大学)
枝村 一磨 (東北大学)
研究プロジェクト 日本における無形資産の研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

我々は、2008年に日本企業の組織管理、人的資源管理に関するインタビュー調査と人事部へのアンケートを行った。本論文は、この調査から得られた391社のデータを使って人材育成を含む人的資源管理と企業パフォーマンスとの関係を調べたものである。

まずインタビュー調査から人的資源管理に関する経営スコアを作成した。これは、成果に対応した報酬や昇進システムをとっているほど、また人材育成を積極的に行っているほど高いスコアが得られる仕組みとなっている。この人的資源管理に関する経営スコアと人事アンケートからの情報を合わせてみると、中高年社員(45歳以上)の比率が高い企業では、人的資源管理の柔軟性に欠けるという現象が見られる。人的資源管理のスコアと従業員1人当たりの教育訓練費には相関性が見られなかったが、1人当たりOff--JT受講日数については相関性が見られた(表1参照)。ただ黒字企業と赤字企業を比べると、Off--JT受講日数は赤字企業の方が少なくなっている。

表1:教育訓練投資と経営スコア(平均)とか相関
表1:教育訓練投資と経営スコア(平均)とか相関

次に人事部へのアンケート調査から得られた労働時間の情報を加えて、生産関数を推計し説明変数となっている人的資源管理に関する経営スコアの平均値と企業の付加価値との関係を見た。この推計では、人的資源管理に関する経営スコアが高くなる人的資源管理を行っている企業ではパフォーマンスも良いという結果を得た。さらに個別のインタビュー項目のスコアを説明変数として推計すると、表2に見られるように研修による人材育成と付加価値とは強い正の関係が見られた。本論文では一時点のデータを利用しているため、因果性について言及することはできないが、人材育成を積極的に行っている企業ではおおむねそのパフォーマンスも良好であるという結果を得た。

表2:人的資源管理の各項目と生産性の関係
表2:人的資源管理の各項目と生産性の関係

本論文の結果は、2005年度から08年度に実施された人材投資促進税制が有効な政策的サポートの1つであったことを示しているが、この政策は相対的に人材育成に力を入れることができない赤字企業には適用されないため、労働者個人への支援策も含めたより包括的な人材育成支援策が望まれる。