ノンテクニカルサマリー

外資系企業の参入と国内企業の生産性成長:『企業活動基本調査』個票データを利用した実証分析

執筆者 伊藤 恵子 (専修大学)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識と仮説

多くの国において、対内直接投資(対内FDI)の促進は、重要な経済成長戦略の1つとして位置づけられてきたが、わが国でも、長期低迷する経済を活性化する目的で、2003年に政府は、対内FDIを5年間で倍増させるという目標を設定し、対内FDIを推進してきた。その理由として、生産性の高い外国企業の参入は、国内の生産性レベルを引き上げるという参入効果と、FDI流入による正のスピルオーバー効果が期待されることが挙げられる。FDIのスピルオーバー効果は、さまざまなチャネルを通してもたらされると考えられるが、たとえば、外資系企業によって新しい技術が国内市場に導入されれば、国内企業によるその新技術の導入も促進される可能性がある。これは、技術やノウハウのスピルオーバーであり、デモンストレーション(実演)/イミテーション(模倣)効果と呼ばれる。また、外国企業の参入による競争促進効果も重要なチャネルである。外資系企業と国内企業との競争により、国内企業は、既存の資源の有効活用や新技術の導入を進めて生産性を高めようと努力するだろう。しかし、FDIスピルオーバーは常に正の効果をもたらすわけではなく、外国企業の進出形態や特性、受け入れ側の国、産業、企業の特性など、さまざまな要因によって、異なる効果がもたらされる。さらに、先行研究のほとんどが、製造業を対象とした分析である。そのため、特に非製造業では、FDIの効果に関して、実証研究による解明はほとんど進んでいない。どのような要因が正のFDIスピルオーバー効果をもたらすのかは、適切な政策立案のためにも重要な研究課題である。

本稿では、2000~07年における、外資系企業のプレゼンスの推移を概観し、全体の雇用や付加価値の増加に対して、外資系企業と国内企業がそれぞれ、どれほどの貢献をしたかを分析する。さらに、国内企業の生産性が同一産業における外資系企業のプレゼンスと相関があるのかどうか、非製造業の企業も含む、経済産業省『企業活動基本調査』の企業レベルデータを活用して分析する。

結果のポイント

まず、2000年から2005年ごろまでは外資系企業数は増加傾向で、それに伴い、企業数や雇用者数に占める外資系企業のシェアは上昇傾向であった。しかし、2006年以降、外資系企業の企業数・雇用者数に占めるシェアは低下傾向にある。一方、付加価値に占めるシェアは低下傾向にはなく、外資系企業は、雇用者数の増加よりも付加価値の増加により大きく寄与しているとの結果が得られた。また、いくつかの先行研究と同様、外資系企業は国内企業よりも規模が大きく、概してパフォーマンスが良好であることも確認された。

外資系企業のスピルオーバー効果の分析の結果、まず、製造業・非製造業ともに、国内企業の生産性に対する外資参入の正のスピルオーバー効果は認められなかった。ただし、企業固有の属性により高い生産性成長率を実現している企業のみが、同一産業への外資参入から正のスピルオーバー効果を受けていることを示唆する結果は得られた。しかし、平均的には外資のスピルオーバー効果は負であり、その負の効果は製造業よりも非製造業で大きく、これは、製造業と非製造業との間に、FDIスピルオーバー効果に関して何らかの構造的な差異があることも示唆している。また、製造業においては、技術フロンティアから遠い企業ほど、外資系企業からの学習効果によって長期的には生産性を向上させる可能性が高いことも示された。

インプリケーション

これらの結果から、まず、対内FDIのスピルオーバー効果は産業の特徴に依存して異なり、均一ではないことが示唆される。どのような産業で、より大きな正のスピルオーバー効果を得られるのか、今後、さらに分析していく必要があろう。また、潜在的に成長性が高い企業は外資から正のスピルオーバーを受けて成長率を高めている可能性が高く、潜在的に成長性が低い企業の底上げを図ることができれば、外資系企業の参入を生産性成長に結びつけることができるといえるかもしれない。現状では、対内FDIの平均的なスピルオーバー効果は正ではないが、成長性が低い企業の底上げを図る政策を効果的に組み合わせれば、対内FDIの正の効果を引き出すことができる可能性もある。

対内FDIが付加価値や雇用の増加をもたらすかどうかについては、雇用よりも付加価値増加への寄与の方が大きいことが示された。しかし、外資系企業の参入が雇用を減少させているわけではなく、特に非製造業では外資系企業の雇用増加への寄与は小さくない。国内企業・外資系企業ともに、新規参入が特に非製造業の雇用を創出する効果は大きく、国内・外資にかかわらず新規参入を促すことが重要であろう。

表:総付加価値に占める外資系企業(外資比率33.4%以上の企業)の付加価値の割合
表:総付加価値に占める外資系企業(外資比率33.4%以上の企業)の付加価値の割合