ノンテクニカルサマリー

中小企業金融における銀行の融資決定メカニズム・中小企業データ分析と中小企業へのリスクマネーの提供

執筆者 吉野 直行 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 我が国のリスク資金供給の現状と政策課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本DPでは、(1)金融機関による中小企業融資の際の「非数値情報などのソフト情報」の定量化、(2)中小企業のデータ収集による倒産確率などの計量分析をアジアに展開すること、(3)預金で集めた資金を地域のリスクマネーとして提供する方法ではなく、地域のファンド、地域の投資信託として資金を集め、地元に還元する方法を提言する。

第一章は、中央大学・根本忠宣氏、慶応義塾大学・渡部和孝氏、立命館大学・小倉義明氏の共同作業による中小企業融資における審査体制と審査判断に関する実態調査をもとに、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合からのデータを分析すると、(i)非財務・非数値情報、(ii)非公開情報、(iii)第3者による証明が困難な情報から構成される「ソフト情報」が、小規模の銀行や小企業と取引が多い金融機関では、重要視される傾向を見出している。その理由は、企業自身のデータがしっかりしていないため、ソフト情報に頼らざるを得ないからだと思われる。また、"本店"での決済では、ソフト情報が重要視されない傾向があるが、しかし、"支店"での最終決済のところでは、融資審査のソフト情報が用いられることがあり、支店のレベルではソフト情報が重視される傾向があるといえる。

今後、金融機関において、ソフト情報の背後にある「目利き」の情報変数が明確化されれば、定量データとして把握され、計量分析に乗せることが可能となり、より緻密な分析へと進めることが可能となる。このためには、「目利き」による貸し出しの際のポイントが、どのような内容(たとえば経営者の資質、従業員のやる気など)から判断されているかを聞きだし、それを定量変数へと置き換える作業が、学者と金融機関の両者によって合同で実施されることが必要となる。引いては、金融機関の貸し倒れリスクの低減につながると考えられる。

第二章では、中小企業のデータを集めることによって、倒産確率を導出したり、中小企業の格付けを行える手法が展開される。CRD(credit risk database)がこのデータを集めて、それを統計処理し、倒産確率などの分析をしている。この倒産確率をもとに、各金融機関は、貸し出し金利をそれぞれの企業について求めることが可能となる。このような中小企業データの収集をアジアで展開するには、タイ・インドネシア・マレーシアなどで、具体的にどのような組織を通じてデータを集める方法があるのかが、今後の政策課題である。アジア各国で中小企業の同様のデータが集められるようになれば、アジア全体で中小企業の分析が行え、中小企業の格付けも可能となる。第一章の「ソフト情報」の項目が明確化されれば、定量データの数も増加し、計量分析の精度をさらに上げることが出来るようになる。

最後に、金融機関が預金で集める資金をミドルリスク企業に融資するのではなく、金融機関の窓口を通じて、地域の投資信託・地域ファンドとして、少しリスクはあるが、成長性の高い企業やプロジェクトに資金を提供する方法を提案する。こうしたファンドは、地元の金融機関の窓口を通じて販売する方法、インターネットを通じて投資家を募る方法など、さまざまな販売ルートが考えられる。日本人が得意としてきた互助の精神を生かし、地域の貢献につなげられるファンド・投資信託である。長野県の飯田市では、家庭の太陽光パネル設置に際して、ファンドで集めた資金を使っている。風力発電、酒蔵のファンド、音楽家のファンドなど、少しずつ、事例が出てきている。こうした試みは、震災復興の際にも、政府から資金だけに頼るのではなく、民間からファンド・投資信託として資金を集めることに展開させることにより、財政負担を減らすことが不可欠であると考える。

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