ノンテクニカルサマリー

企業結合規制における効率性の位置づけ

執筆者 川濵 昇 (ファカルティフェロー)
武田 邦宣 (大阪大学)
研究プロジェクト グローバル化・イノベーションと競争政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

企業結合規制において効率性を重視せよとの主張が、そのコロラリーとしての日本企業の国際競争力論とともに、近時よく見られるようになった。米国、EU等、諸外国における規制実務の趨勢としては、効率性を積極的に評価する立場のうち、いわゆる「消費者厚生基準」が有力なものとなっている。公正取引委員会が2004年に公表した企業結合ガイドラインも、同種の立場を採用しているように見える。消費者厚生基準は「効率性なかりせば違法」となる企業結合を、効率性ゆえに適法とする基準であるが、我が国では企業結合規制が非公式の事前相談段階で行われていることもあり、消費者厚生基準の採用を可能にする独占禁止法の解釈論が必ずしも詰められてはいなかった。本DPは、現行法において消費者厚生基準の採用を可能にする解釈論を提示するとともに、それにより、合併シミュレーションの採用が可能となる等、わが国における企業結合規制の精緻化・透明化が進展されることを示す。

さらに本DPは、消費者厚生基準を超えて、企業結合による総余剰の増大を評価する「総余剰基準」や、関連市場外における消費者余剰の増大を評価する「消費者間の比較衡量基準」の可能性についても検討する。まず、総余剰基準については、それを明示に採用したカナダ法における実務・議論の展開を見ると共に、規制の構造的分析にかかる近年の知見から、立法論的にも十分な留意が必要であることを示す。他方、消費者間の比較衡量基準については、米国や英国などで同基準が採用されており、我が国でも立法論として検討に値するが、その大前提は、消費者厚生基準に基づく企業結合規制の精緻化、厳密化であると主張する。

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