ノンテクニカルサマリー

中小企業向け融資における審査体制と条件決定に関する実態調査

執筆者 根本 忠宣 (中央大学)
小倉 義明 (立命館大学)
渡部 和孝 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 金融・産業ネットワーク研究会および物価・賃金ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

隣接基礎研究領域A (第二期:2006~2010年度)
「金融・産業ネットワーク研究会および物価・賃金ダイナミクス研究会」プロジェクト

本稿は、7都県約20の地方銀行、第二地方銀行、信用金庫を対象に実施したインタビュー調査を通して入手することができた中小企業向け融資における意思決定構造、顧客情報の収集・管理の実態に関する情報を公開可能な範囲で要約・紹介したものである。

中小零細企業は業況の不確実性が高く、情報開示も限定的であることから、これらの企業への融資に際しては、長期的融資関係を通して蓄積された非公開の顧客情報に基づく審査に依存する融資手法、いわゆるリレーションシップバンキングが重要となる。リレーションシップバンキングに関しては、すでに数多くの理論モデルが提示されているが、それらのモデルの仮定と帰結の中には、現時点では統計的分析に充分なデータベースがないために、その現実的妥当性が充分に検証されていないものが含まれている。本稿ではそのような未検証の仮定・帰結のうち、以下の3点について、定性的情報に基づく検証を試みている。

  1. (裁量性)融資可否・条件の決定はどの程度裁量的なのか。ルールに基づいて「機械的に」設定されていないか。
  2. (分権度)どのレベル(支店、本店審査部、取締役会)で、融資可否・条件が決定されているか。
  3. (利用情報)どのような情報(定量/定性、ソフト/ハード(図1))が、(1) 企業の内部格付、(2) 融資可否の決定、(3) 行内基準金利の設定、(4) 融資条件の決定、の各段階で用いられるか。

図1:情報の種類
図1:情報の種類

これらの諸点について、多くの地域金融機関で共通して観察された傾向は以下の通りである。

  1. 顧客企業の行内信用格付等に応じて行内基準金利が機械的に設定されてはいるが、他行との競合から基準金利以下の金利を裁量的に設定せざるを得ない案件の比率の方が多い。
  2. どの金融機関でも、全ての融資案件で少なくとも支店長による承認が必要とされている。支店長が最終決裁できる融資案件の規模等に関しては金融機関によりかなりばらつきがあり、支店で最終決裁される案件・金額の全体に占める割合も金融機関によりかなりばらつきがある。行内基準金利以下の融資金利を顧客に提示する場合には本店にその旨を申請する必要がある。多くの金融機関で近年支店長の権限を拡大する傾向にある。
  3. 定性情報(非財務情報)は、提出された財務諸表を実態に即して修正する時、融資可否決定のための稟議書作成時、あるいは行内基準金利以下の融資金利を提示する際の本店向け申請書作成時に参考情報として用いられる。しかし、定性情報が融資金利の設定に直接用いられることはほとんどない。

中小零細企業の財務情報の信頼性を補うために非公開のものも含む定性情報が利用されることが多いとの実態は、中小零細企業の財務情報の信頼性と公開性の向上を促すような制度の改善が、融資審査の非公開定性情報への依存度を低下させ、融資市場の経済効率性の向上に寄与する可能性を示唆している。