ノンテクニカルサマリー

東アジアにおける企業活動のグローバル化と国内のオペレーション:日本の製造業企業についてのさらなる実証的証拠

執筆者 安藤 光代 (慶應義塾大学)
木村 福成 (慶應義塾大学 / ERIA)
研究プロジェクト 産業・企業の生産性と日本の経済成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

日本企業は、製造業を中心に、直接投資などを通じて東アジアとの結びつきを強化している。一般的に、海外進出、とりわけ低所得国への直接投資は、国内での企業活動の縮小をもたらすと考えられがちである。しかし、工程間分業が進んでいる東アジアとの補完的なオペレーションをうまく活用し、日本に残せる仕事を増やしていくことは可能である。たとえば、図1にあるようなコアとなる部品・中間財の生産への特化、本社機能や研究開発の強化など、日本が強みをもつ工程を強化することはできるだろうし、国際分業をうまく活用することで、最終的な製品の価格を下げ、その製品の競争力を強化することも可能である。

本論文では、1998年から2002年と2002年から2006年の2期間において、東アジアでのオペレーションを拡張している企業が、拡張していない企業と比べ、国内オペレーションや海外取引をどう変化させているかを検証した。

東アジアでのオペレーションを拡張している日本の製造業企業は、国内において雇用や事業所・子会社の数を増加させる傾向にあり、その傾向は、国際分業がより活発になっている後半期間において、なお一層顕著に見受けられる。たとえば、東アジアでのオペレーションを拡張している製造業企業は、そうでない製造業企業に比べ、雇用の増加率が後半期間で6.7%高く、しかも同期間における雇用創出の8割近くを占めている。さらに、東アジアでのオペレーションを拡張している企業は、東アジアとの貿易も強化する傾向にあり、補完的なオペレーションの存在が示唆される。

少なくとも企業レベルでは、製造業での海外進出を強化したとしても、東アジアでの生産工程レベルでの国際分業を効果的に活用できれば、追加的な国内雇用・オペレーションを生み出すことが可能である。

図1:国際分業における補完的なオペレーションの例:イメージ図
図1:国際分業における補完的なオペレーションの例:イメージ図