ノンテクニカルサマリー

自然災害と人的災害が生み出す経済厚生インパクトの比較分析

執筆者 澤田 康幸 (ファカルティフェロー)
リマ・バタチャリャイ (RIETIリサーチアシスタント)
小寺 寛彰 (RIETIリサーチアシスタント / 東京大学)
研究プロジェクト 開発援助の先端研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

ここ数十年、先進国途上国を問わず世界各国・各地域において数多くの自然災害や人的災害の被害が発生しており、とくに自然災害の発生頻度が増加傾向にある(図1参照)。これら自然災害には津波や地震・洪水・感染症などが含まれ、人的災害とは金融危機・テロや戦争のことである。これらの災害は巨額の社会的・経済的コストを生み、特に低所得国への影響が大きい可能性がある。

本論文では、さまざまな種類の自然災害・人的災害がもたらす影響を定量的に評価・比較する。我々はまず、自然災害を水文気象学的、地学的、生物学的な性質によって分類し、これらと経済危機・内戦や戦争等の人的災害に関する、189カ国の1968年から2001年までに及ぶ国際比較パネルデータを構築した。そしてこの独自のパネルデータに基づいた回帰分析を行い、厚生指標である1人当たりの消費に対する個々の自然災害、人的災害の影響を定量的に比較した。

モデルの推定結果から、災害発生後1-3年の短期では、どの災害も厚生に対して負の影響をもたらし、その中でも自然災害が、もっとも負のインパクトが大きいことが分かった。たとえば、我々の推計結果の1つによると、自然災害が1つ発生することで、国の1人当たり消費成長率は、1年後に約0.01%ポイント低下する。他方、興味深いことに災害発生後15-25年の長期では、自然災害と戦争が、1人あたりGDPの成長率に正の影響をもたらすことが示された。更に、GDPの規模にしたがって国家を大国と小国とに分けた時、大国の場合は戦争が、小国の場合は自然災害が、短期的に最も深刻な影響をもたらすことが分かった。ここから、自然災害、人的災害のインパクトは国の規模に依存するという傾向がいえるであろう。

これらの結果から得る政策的インプリケーションは、短期的なケースでは、自然災害や戦争、内戦の被害への支援に、長期的なケースでは、経済危機に対する政府の継続した介入により重点を置くべきだということである。自然災害や戦争・内戦の復興処理は物理的な被害に対する復興であり、従来も長期にはある程度十分な支援が行われている可能性がある。他方、経済危機への復興は長期にも困難を伴うものであるといえるかもしれない。

図1:1960年から2006年までの自然災害、人的災害の頻度
図1:1960年から2006年までの自然災害、人的災害の頻度