ノンテクニカルサマリー

資本集約的な企業ほど輸出主導型企業か?

執筆者 リカード=フォースリッド (ストックホルム大学)
大久保 敏弘 (神戸大学経済経営研究所)
研究プロジェクト 貿易政策と企業行動の実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

今後、日本の人口が減少し、国内市場が小さくなるにつれ、海外市場への輸出が相対的に重要になってくる。企業規模が小さくても海外への輸出志向の強い、いわゆる「輸出主導型企業」をどう戦略的に育てていくかは今後の日本にとって政策的に非常に重要な課題である。この論文から得られる政策的インプリケーションは、第1に産業によって特性が大きく異なる。単に投資減税などを通じて投資を促進し、個々の企業の資本を大きくすることが企業の輸出を伸ばし輸出主導型にするとは限らない。また逆に雇用を増やすような政策をしてもすべての産業でうまくいくとは限らない。輸出主導型企業を多くするには産業間の異質な特徴(特に資本集約度や輸送費の違い)をよく考えたうえで、個別具体的な政策を打つ必要があるだろう。第2に輸送の規模の経済や個々の企業の資本集約度により、輸送費の重要性は企業間・産業間で異なってくるが、総じて輸出比率を高める効果がある。このため輸送に関連する港湾などのインフラストラクチャーの整備や運送業・運送サービスの効率化は日本企業の輸出比率を伸ばし、輸出主導型企業を増やすうえで非常に重要な施策になりうる。国際的な物流効率化やアジア諸国の戦略的な港湾ハブ化の流れの中で、今後、我が国は輸送の規制改革や戦略的な港湾整備における政策が強く求められるだろう。

「輸出企業の特性は何か?」は近年の国際貿易論の大きなトピックである。生産性の高い企業ほど、企業の規模が大きいほど、輸出しやすくなり、輸出額も大きくなる。多くの実証結果が世界各国でこの事象を明らかにしている。企業規模が大きい、生産性が大きいほど、輸出額は大きい。しかし既存の新・新貿易理論(たとえばMelitz、2003)では、企業の生産性の違いにも係らず、輸出額と国内売上の比率は一定であり、輸出額が国内販売を大きく上回るような「輸出主導型企業」の分析は十分にできていない。

実際、企業レベルのデータを見ると全売上にしめる輸出の割合(輸出比率)は産業間・企業間で大きく異なる。たとえば、同じ優良企業でも、海外市場での販売に強い企業もあり、あるいは日本国内であまり名前を聞かない小規模企業が、世界市場で大きなシェアをしめる企業も少なからず存在する。逆に、国内市場に強く圧倒的なマーケットシェアをもっている企業もある。本論文では、このように輸出比率が産業間・企業間で異なる要因を分析した。実際、輸出比率は輸送費と資本・労働比率に密接な関係を持っており、産業ごとでも状況は異なる。主に2つのケースが考えられる。(1)たとえば鉄鋼産業では資本集約的な企業は高炉を持ち、原料から鉄鋼そのものを作り、さらには製品にするまで一貫して生産しており、輸送費の高い鉄鋼・鉄鋼製品を作っている企業が多い。結果、輸出比率は低く、多くは国内向けである。逆に労働集約的な鉄鋼メーカーは特殊な鉄鋼加工製品を作っている企業が多く、輸送費は全般的に低く、海外への輸出も多い。(2)一方、産業用機械産業では逆のパターンが見られる。資本集約的な企業ほど制御装置や特殊な産業機械部品、高度な技術を持った製品を多く生産しており、輸送費は比較的低く、輸出比率が大きい。逆に労働集約的な企業は同じ産業用機械産業でも産業用ミシン、ヒーター、冷凍装置など大型で基礎的な機械の生産が多く輸送費は比較的高いため、輸出比率は低い。このように輸出比率・資本集約度・輸送費の関係は産業間で状況は大きく異なる。

我々の論文ではまず、資本と労働の2つの生産要素のある企業の生産性に異質性のある貿易モデルを作り、さらに輸送費が資本労働比率により異なり、また輸送量に関して規模の経済が働くモデルを作った。このモデルを使い、各産業でカリブレーションを行い、パラメータを推計した。下の2つの図は典型的な2つの産業の結果をピックアップしたもので、輸出比率と資本集約度の関係を示してある。鉄鋼産業など軽工業、素材産業では上記の(1)のパターンが多く、労働集約的な企業ほど輸出比率が大きく、資本集約的な企業ほど輸出比率は低い。これは輸送費が資本集約度と強く正比例して増大するため、資本集約度の高い企業ほど輸出しにくく、一方で資本集約度の低い企業ほど輸送費が相対的に低くなるので輸出は多くなる。一方、産業用機械産業など重工業(機械産業)では上記の(2)のケースが多く、資本集約的企業ほど輸出比率が大きい。これは資本集約的な産業ほど生産性が高く、輸送の規模の経済が大きく働くため、資本集約度の高い企業ほど規模の経済により輸送費が低くなり輸出を増すことができる。

カリブレーションの結果、推計されたパラメータをもとに、企業レベル・産業レベルで輸送費を導出した。最終的に実際の輸送費と比較をした結果、有意な関係があり、データの散らばり具合の半分ほどを説明できることがわかり、我々の作ったモデルのように輸送費の産業・企業による違い、とりわけ資本労働比率や輸送費における規模の経済が、輸出主導型企業を分析する上で重要であることがわかった。

Calibrated export shares, sector 301: Industrial electric apparatus
Calibrated export shares, sector 261: Iron and steel