ノンテクニカルサマリー

特許データによる日本の産学連携政策の評価分析

執筆者 元橋 一之 (ファカルティフェロー)/村松 慎吾 (東京大学)
研究プロジェクト オープンイノベーションに関する実証研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本稿は、日本の特許データを用いて、1990年代の後半から導入された産学連携政策の結果、産学連携の内容や結果がどのように変化したのかについて定量的な分析を行った。2004年の法人化以前は、国立大学においては特許の機関帰属がなされず、産学連携の結果として出願された特許も企業の単独出願特許となっていることが多い。このような問題意識に基づいて、産学連携特許を共同出願の情報だけでなく、大学関係者と企業研究者が共同で発明した特許についても特定することによって、国立大学の法人化前の産学連携の状況を特許データから把握することを可能とした。

図は産学共同出願特許と企業単独出願であるが、産学共同発明による特許の出願数の推移を見たものである。国立大学の法人化が行われた2004年以降、共同出願特許は急激に増加しているが、その一方で共同発明特許の減少がみられる。このように2種類の特許は代替的な関係にあるものの、両者を合計した特許数は増加を続け、全特許出願数に占める割合も増加している。

図:産学連携特許数の推移
図:産学連携特許数の推移

また、本稿においては、特許の被引用数などの特許の質に関する指標を用いて、産学連携による特許数だけでなく、その質の変化についても分析を行った。産学連携政策は2004年の大学法人化だけでなく、1998年のTLO法、1999年の日本版バイドール法など90年代後半から見られるものなので、サンプル全体と1999年までと2000年以降に分けて質の変化を見た。その結果、2000年以降、政策の影響を受けて産学連携特許の数が増えているが、その技術的価値の低下は見られず、大学技術の社会還元という政策目標は達成されていることが分かった。しかし、産学連携特許の特性が、従来は基礎的な研究成果による波及効果の高いものであったが、より応用的な研究に変化してきていることも分かった。

また、産学共同出願特許と共同発明特許を比較した結果、被引用数などでみた特許の質は共同発明特許の方が高いことが分かった。国立大学の法人化に伴って、産学連携の成果としての知財は産学が共同で保有する方針が取られているが、これによって企業サイドにおける特許の実施が行いにくくなったとの声が聞こえる。そのような環境の変化を背景として、企業においても自社にとって重要なプロジェクトは産学共同研究を避ける方向に動いているのではないかと考えられる。国立大学における知財ポリシーは画一的なガイドラインのもとに設けられたものであるが、今後は研究成果の特性に応じて、企業との権利シェアリングを適切に行うなどによりフレキシブルな対応が求められることを示唆している。