ノンテクニカルサマリー

相互協議に関するいくつかの問題

執筆者 伊藤 剛志 (西村あさひ法律事務所)
研究プロジェクト 通商関係条約と税制
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

相互協議とは、二国間租税条約に定められる締約国の権限ある当局による協議のことであるが、近年、国際的取引の増加や各国の国際取引に対する税務執行行政の強化等を背景として、納税者が相互協議を申立てるケースが増加しており、その重要性が増している。相互協議はその実施の根拠が二国間租税条約に求められており、国内租税法との関係については明確ではない点も多い。

現在、相互協議が申立てられる事案の多くが移転価格課税に関するものであるが、移転価格課税が適用される状況は、いわゆる、寄付金課税が行われうる状況と類似する。しかし、前者は納税者が相互協議の申立てをすることができると解されるのに対して後者は相互協議の申立てをすることができないと解されている。

また、わが国当局への相互協議の申立ては、居住者・内国法人に限られていることから、非居住者・外国法人の恒久的施設(Permanent Establishment, PE)(たとえば国内支店)はわが国当局への相互協議の申立てが認められていない。恒久的施設を通じた取引については、場合により、申立てを要件としない相互協議の活用が求められる。

相互協議の手続きは国内法令で定められた救済手続きとは別個・独立の手続きであるため、相互協議手続きと国内救済手続きが並行して行われることも現行法では生じうる。しかし、両者の手続きが並行して行われる場合には、潜在的には両者で矛盾する結論がでる可能性もある。実務では、相互協議を先行させることが多いと思われるが、このような対応は必ずしも制度的に保障されているわけではなく、立法的な手当てが望まれるところである。

近時では、二国間相互協議で解決できない問題に対して、国際機関に仲裁付託をすることにより最終的な解決を可能とする旨を租税条約に定めることが模索されている。かかる仲裁が実現した場合、仲裁判断が国内法との関係でどのような効力を有することとなるのか、検討が必要であるように思われる。