ノンテクニカルサマリー

国内外におけるマクロ計量モデルとMEAD-RIETIモデルの試み

執筆者 福山 光博 (コンサルティングフェロー)
及川 景太 (コンサルティングフェロー)
吉原 正淑 (コンサルティングフェロー)
中園 善行 (RIETIリサーチアシスタント)
研究プロジェクト 新しいマクロ経済モデルの構築および経済危機における政策のあり方
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識と分析の内容

米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発し、08年9月の米大手投資銀行の破綻から深刻化した世界的な金融危機は、日本経済に大きな影響を与えた。政策対応を考える上で、海外要因をはじめとした各種のリスクや政策効果の分析を行いつつ、将来の経済の姿を想定しながら政策運営を行っていく必要性は、これまで以上に高まっている。このような問題意識から、筆者らは、最近の内外における計量モデル構築の潮流や主要なマクロモデルの体系、それらの理論的背景を踏まえつつ、「MEAD-RIETIモデル」(MRM)を新たに構築した。

MRMは、四半期経済データをベースとして短期の各種リスク、政策効果の定量的評価等を目的とした計量モデルであり、経済理論と整合的な均衡を配慮しながらデータとのフィットを重視したハイブリッド型モデルである。また、構築にあたり、SNA統計をはじめとする主要な経済変数を包括的に扱う一方、簡潔な推計式、採用する変数の絞り込みにより、モデルの複雑化を回避した。

海外需要減少と円高に関するシミュレーション結果

構築したMRMを用いて、海外需要および為替レートにネガティブなショックが我が国経済に与える影響についてシミュレーションを行った。

図1は、第1四半期に海外GDPに▲0.5%程度のネガティブなショックが生じた場合に、我が国GDPがどのような変動を示すかを記述したものである。外需の低下の影響を反映して、第1四半期に▲0.2%程度の落ち込みを示し、その後、第2、第3四半期には▲0.3%程度で底打ちし、第6四半期には均衡水準まで回復する。

一方、図2は、第1四半期に邦貨建対ドル為替レートに▲4.1%程度のネガティブ(円高)ショックが生じた場合に、我が国GDPにどのような影響をもたらすかを示したものである。こちらも円高による国内外の相対価格の変化がもたらす外需の低下を反映して、第1四半期に▲0.1%程度の落ち込みを示し、その後、第6四半期に▲0.3%程度で底打ちした後、緩やかに回復を示している。しかし、図で示される第12四半期後の時点では、均衡水準まで戻っておらず、海外GDPに対するショックと比較して、為替レートのショックの方が、我が国経済に対し、より長期的な影響を与えている。

図1 海外GDPに対するネガティブショック時の国内GDPの変動
図1 海外GDPに対するネガティブショック時の国内GDPの変動
図2 対ドル為替レートに対するネガティブ(円高)ショック時の国内GDPの変動
図2 対ドル為替レートに対するネガティブ(円高)ショック時の国内GDPの変動

(注)シミュレーションは、2010年第1四半期をショックの生じる第1期目とし、図で示される数値は、ショックが生じない場合のベースシナリオとショックが生じた場合のショックシナリオとの乖離率を示している。

インプリケーション

MRMによるシミュレーション結果を見ると、海外GDPに対するネガティブなショックと比較して、為替レートの円高ショックの方が、我が国経済に対し、より長期的な影響を与えている。この結果は、海外GDPの減少が直接的に外需(純輸出)に与える影響よりも、為替レート変動を通じた相対価格の変化による外需(純輸出)に与える影響の方が長期間に渡ることを示唆しており、短期的な国内経済への影響という視点に立てば、円高がもたらすネガティブな効果は大きい。

ただし、シミュレーションの結果については、たとえば、海外経済が落ちこんだ場合、海外の金利なども低下するが、MRMでは海外金利を外生扱いしており、国内経済の落ち込みが為替レートの減価を過大に評価している可能性もあり、評価には一定の留保が必要である。今後も、ここで指摘した海外経済の取扱いなどを含め、MRMの改善を重ねていきたい。