ノンテクニカルサマリー

環境アウトソーシング:汚染集約的生産工程の海外委託の検証

執筆者 大久保 敏弘 (神戸大学経済経営研究所)/Matthew A. COLE (英国・バーミンガム大学)/Robert J.R. ELLIOTT (英国・バーミンガム大学)
研究プロジェクト 貿易政策と企業行動の実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

近年、国際的な連携のもとでの環境政策が重要になってきているが、対策に積極的な先進国に対して、発展途上国の多くは経済発展を阻止するとして、総じて消極的である。このため国際間の環境規制の格差は顕著で、海外直接投資や国際貿易にも大きな影響を及ぼしている。とくに国際貿易と環境の分野の最新の研究では「汚染回避仮説」を検証することが大きなテーマになっている。具体的に進められてきた研究仮説には2つあり、1つは環境規制の厳しい国から緩い国へ特に汚染集約的な企業や産業が移転する、あるいは海外直接投資が進む(企業立地・移転促進効果)。もう1つは環境規制の厳しい国では汚染集約的な国内生産が減り、その分、輸入は増え、貿易パターンが変化する(貿易構造変化)。

一方、近年の国際貿易の実態をみると、多様な形で国際分業が進んでおり、アウトソーシング(一部の生産工程の企業外部への委託)も多くなっている。とくに中国、他のアジア諸国へのアウトソーシングが非常に活発である。このような状況を踏まえて国際貿易の研究においてもアウトソーシングの要因、生産性への影響といった研究が多くなってきている。しかしながら、アウトソーシングの観点から「汚染回避仮説」を研究したものはいまだ存在しない。そこで本論文では汚染集約的な生産工程を海外にアウトソーシングすることで汚染回避をしている、いわゆる「環境アウトソーシング」を検証した。

まず企業の異質性を用いた貿易理論モデルから検証仮説を導き出した。続いて、仮説に基づいて企業活動基本調査を用いて分析した。統計調査に含まれる環境行動に関する調査項目の平均値をアウトソーシングの有無の別でグラフにした(下のグラフ)。結果、アウトソーシングをしている企業のほうが各種指標の平均値が高く、環境・汚染対策に腐心していることが分かる。このことから、汚染集約的な企業・産業ほど国内で環境対策に費用がかかるため環境アウトソーシングしている可能性が高いといえる。さらに厳密に企業活動基本調査の個票を用いて回帰した。アウトソーシングの有無を被説明変数にし、輸送費・関税、個々の企業の環境対策の指標、企業の特性(規模、資本集約度、輸出、R&D、広告費用)を被説明変数にし、ロジット回帰をした。回帰の結果、環境対策負担(汚染防止費用)が大きいほど、貿易費用が低いほど、企業の規模が大きく輸出やR&D投資が高いほど、海外アウトソーシングしやすいことが分かった。環境アウトソーシングを通じた汚染回避の可能性があるといえる。

政策的インプリケーションとしては、第1に汚染回避のための環境アウトソーシングが今後多くなれば、より経済成長を促進することから、発展途上国は環境規制を緩いまま維持し続けるだろう。さらには、国際的な環境条約や排出削減により否定的になる可能性が高く、国際貿易や直接投資への歪みもさらに大きくなるので、十分注視していく必要がある。第2に汚染集約的産業でアウトソーシングしやすいため、日本国内での雇用が失われやすい。しかし、逆に環境規制を若干緩めることで、アウトソーシングを食い止めることができるので、大きな雇用創出効果が得られることができるだろう。

Appendix 4. Average Values pf Environmental Variables for Outsourcing and Non-Outsourcing Firms
Appendix 4. Average Values pf Environmental Variables for Outsourcing and Non-Outsourcing Firms