ノンテクニカルサマリー

クロスボーダーアライアンスと市場競争

執筆者 武智 一貴 (法政大学)
研究プロジェクト 貿易政策と企業行動の実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

日本の医薬品産業における重要な政策課題として、海外に比べて医薬品の供給にラグがある点(いわゆるドラッグ・ラグ)、および成長戦略としての高い付加価値をもつ医薬品産業の育成の2点がある。本論文は、海外企業が供給コスト削減目的でアライアンスを行っているか確認し、アライアンスにより結託や市場の歪みが生じているか検証することで、以上の政策的問題を考察している。

まず、アライアンスにより医薬品の導入が低コストで進むならば、積極的なアライアンス促進政策が医薬品の早期導入や低価格供給を促すことにつながると考えられる。下図に示されるようにアライアンスによる限界費用(点線)の方が、海外企業が自社供給する時の限界費用(破線)よりも低い点が示され、アライアンスを用いることで海外企業は低い現地供給コストを達成していることが分かった。従って、アライアンス促進政策により、海外企業にも低コストの参入機会を与え、供給ラグを解消し効率性を高めることができると考えられる。また、2004年以降海外企業の供給コストが低下していることから、日本の制度改革(薬事法改正等)や流通制度の変化が海外企業のコスト低減に影響していると思われ、効率性を高める国内制度改革の重要性を明らかにしている。

また、アライアンス促進政策の必要性は、日本の成長戦略にとって重要な高付加価値産業の育成についてもいえる。アライアンスを通じて容易に参入が可能になるのであれば、医薬品産業の育成にとって重要なバイオベンチャーなどの新規参入を促進することができる。日本でもバイオベンチャーによる開発、医薬品企業とのアライアンスが行われているが、諸外国に比べると不十分であるといわれる。なぜ未だ不十分かについては、ベンチャーキャピタルの未発達などさまざまな問題があるが、薬事法改正で製造部門のアウトソーシングが可能となったように、アライアンス促進政策・制度設計が1つの解決策と考えられる。規模の経済を生かした大規模医薬品企業と、開発部門に特化した企業という産業構造が構築されるには、開発部門に特化した企業が、製品販売からの収益ではなく、アライアンスにより収益を確保できることが必要である。従って、アライアンス促進政策による新規参入の促進が高付加価値産業の育成につながると考えられる。

図1

ただし、アライアンスの際に高ロイヤルティが賦課されているケースでは、高ロイヤルティが企業の価格付けの際に高マークアップを生み、結果として市場の歪みが生じる。また、アライアンスには結託を促す可能性もある。そのため、アライアンスにより市場競争が阻害され高マークアップで供給が行われる場合は国民経済に与える影響が大きいと考えられる。本研究では、シミュレーションを行い、下図で表わされているように、もしアライアンス契約が高いロイヤルティ率(下図では10%)で行われているならば、点線で示されているような高マークアップが市場に生じている可能性を示した。よって、契約内容によっては市場の効率性を低める可能性が存在する。

図2

しかしながら、結託、固定料によるアライアンス、高ロイヤルティ支払いによるアライアンスのどのモードがデータに最も適合するか実証的にテストを行った結果、結託や高ロイヤルティの可能性は低く、固定料アライアンスが行われている可能性が高いことが明らかとなった。従って、アライアンスにより結託や高マージンが生じている可能性は低いと考えられる。以上のことから、アライアンスが多く行われている市場であっても、十分な市場競争が行われており、先に述べたようにアライアンスを促進させる政策が社会的に望ましい可能性を本研究結果は示唆している。