ノンテクニカルサマリー

世界金融危機後のアジアにおける地域通貨協調:地域通貨安定性のASEAN+3とASEAN+3+3との比較

執筆者 小川 英治 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 東アジアの金融協力と最適為替バスケットの研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本DPでは、ASEAN+6(日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)をカバーする東アジア共同体構想に関する議論が盛んに行われていることを踏まえて、この地域における域内通貨間の為替相場の安定性を考察している。Ogawa and Yoshimi (2009)がASEAN+3(日本、中国、韓国)の通貨間の為替相場の安定性に焦点を当てたのに対して、本DPでは、ASEAN+3の通貨に3通貨(インド・ルピー、オーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドル)を加えたASEAN+3+3の場合と、ASEAN+3の通貨にインド・ルピーのみを加えた場合で、実証分析を行った。

本DPの分析のために、経済産業研究所のウェブサイトから入手できるAMU-wideに基づく各国通貨のAMU-wide乖離指標のデータを利用する(図)。ASEAN+3通貨を対象としたAMU乖離指標の加重平均値に比較して、ASEAN+3+3通貨を対象としたAMU-wide乖離指標の加重平均値が2000年半ば以降一貫して高い。また、AMU-wide乖離指標の加重平均値への各国通貨の寄与度を見ると、AMU-wideの乖離に対して、日本円、中国元、韓国ウォンと並んで、オーストリア・ドルとインド・ルピーも相対的に大きい寄与を示している。

図:AMU-wide乖離指標
図:AMU-wide乖離指標

β収斂とσ収斂の実証分析の結果は、円キャリートレードが盛んに行われ、そして、サブプライム問題やリーマン・ショックが起こった2005年1月から2010年2月にかけての分析期間では、ASEAN+3の場合と同様に、ASEAN+3+3の場合もASEAN+3+インドの場合も、通貨は乖離する傾向が強かった。しかしながら、通貨の動きが比較的安定していた2000年1月から2005年1月の分析期間では、ASEAN+3の場合には収斂する傾向が見られたが、ASEAN+3+3もASEAN+3+インドの場合にも収斂する傾向が見られなかった。一方、ASEAN+3+3の場合とASEAN+3+インドの場合を比較すると、相対的に後者の方が収斂する傾向が強かった。

これらの実証分析の結果は以下のような政策含意を含む。第1に、東アジアの地域金融協力のチェンマイ・イニシアティブ(CMI)がカバーするASEAN+3の域内為替相場の安定性が、インド・ルピーやオーストラリア・ドルやニュージーランド・ドルを含んだ場合より、域内為替相場の安定性が高いことから、域内為替相場の安定性を目指した域内通貨協調はまずはCMIに基づいて始めることが容易である。第2に、ASEAN+3+3の場合よりASEAN+3+インドの場合の方が相対的に域内通貨の安定性が見られることから、域内通貨協調を拡大するのであれば、ASEAN+3にインドを加えることであろう。実際に、CMIの通貨スワップ取極めと類似の通貨スワップ取極めを日本とインドとの間で締結していることも、インドを含めた地域での域内通貨協調を行うことを容易にする。

参考文献

Ogawa, Eiji and Taiyo Yoshimi, (2009) "Analysis on β and σ Convergences of East Asian Currencies," RIETI Discussion Paper, 09-E-018.